抄録
吸入麻酔薬は基礎研究において子宮平滑筋の弛緩作用が示されている。しかし,臨床において吸入麻酔薬の使用が子宮の弛緩におよぼす影響はほとんど分かっていない。そこで本研究では,分娩後に使用する麻酔薬と帝王切開の術中出血量との関連について検討した。当院で7年間の観察期間に緊急帝王切開が行われた511例の症例を後方視的に解析した。全身麻酔が147例および脊椎麻酔が364例あった。全身麻酔のうち,分娩後に使用された麻酔薬はプロポフォールが125例および吸入麻酔が22例(セボフルラン15例,デスフルラン7例)であった。多変量解析の結果,吸入麻酔の使用はプロポフォールの使用と比較してむしろ出血量の減少傾向を示した(−155 mL;95%信頼区間,−344~35 mL)。分娩後の吸入麻酔薬の使用と帝王切開の術中出血量との関連は認められなかった。これらの知見を支持するためにはさらなる大規模研究が必要である。