抄録
神経伝導速度(nerve conduction velocity: NCV)の測定は,糖尿病性末梢神経障害による神経障害の進行度を客観的に評価できる最も簡便な方法の一つである.われわれは442名の2型糖尿病患者において,毎年一回,8年間連続でNCVを測定した.測定した442名の患者を網膜症の進行程度別に分類し,網膜症の進行度とNCVの関係を調べた.また,網膜症の進行度別にNCVの経時的変化を検討した.網膜症の進行度とNCVの関係の検討では,網膜症が進行しているほどNCVは有意に低下していた.網膜症の進行度別NCVの経時的変化の検討は,どの網膜症のレベルでもNCVは進行性に低下し,8年目のNCVは初回測定時のNCVに比して有意に低下していた.しかしながら,各々の網膜症レベルの8年目の平均NCV測定値が一つ上の網膜症レベルの初回測定時の平均NCV測定値を超えて低下することはなく,各々の網膜症レベルのNCVの低下に連続性がみられた.これらの結果より,網膜症が進行しているほど神経障害も進行していること,神経障害は非常に進行性であり網膜症が出現していない時期から網膜症が進行した時期まで,網膜症の増悪とともに進行性に悪化し続けること,などが示唆された.