医療者用の糖尿病スティグマ尺度を作成し,当院に勤務する507名の医療従事者に対して調査を行い,医療者が糖尿病に対して抱いているスティグマの実態を検討した.尺度のCronbach αは0.832であり,信頼性が確認された.5因子のスティグマのうち,根拠のない自信,固定観念が最も高く,次いで偏見,恥ずべき疾患で,社会的差別は最も低かった.糖尿病患者との関わりを好まない方(p<0.001),関わりが高頻度である方が高かった(p<0.001).職種別では,固定観念は,医師が他の職種に比べて有意に高く(p<0.001),糖尿病は恥ずべき疾患という認識は,医師に比べ看護職で高かった(p=0.02).この結果から医療者の糖尿病に対する誤った認識があることが明らかになった.理想的な糖尿病患者像を求めることによる患者との間の意識の乖離が,スティグマに繋がっているのではないかと考えられた.
糖尿病患者の経験・思いを知る事は,診療と施策の改善に向け真に重要な点を見定めることに繋がる.糖尿病の診療と生活の体験に関する自記式調査を1型1,099名・2型1,436名に実施した.医療機関での糖尿病に関する相談相手としては,「医師」との回答が9割を超える一方,医師以外は少数だった.受診中断経験は1型3.2 %・2型8.7 %であり,診療の優先度の理解不足・経済上の要因が理由に挙がった.再受診の契機は呼びかけ等の医療者との関わり,体調の悪化が多かった.医療費を「大変負担に感じる」割合は1型33.8 %・2型13.4 %であった.社会における糖尿病の偏見は1型・若年で感じる割合が高く,1型21.9 %・2型12.0 %が医療者の中に偏見があるに「そう思う・ややそう思う」と回答した.多職種での患者への関わり,具体的な困難の解決に繋がる検討が求められる.患者の感じる偏見は,まず医療者から取り組むべき課題である.
症例は82歳女性.肝細胞癌再発に対しアテゾリズマブ,ベバシズマブ併用療法を導入,4か月後に意識障害を主訴に救急搬送された.NH3軽度高値のほか明らかな異常を認めず,随時血糖170 mg/dL,HbA1c 5.6 %であった.入院後も傾眠が持続し,血清Naは1週間で121 mmol/Lまで低下した.血清コルチゾール,ACTHとも低値であり負荷試験を経てACTH単独欠損症と診断した.ヒドロコルチゾン(HC)投与後,空腹時血糖332 mg/dLを認めインスリン頻回注射で管理した.抗GAD抗体陽性であったがインスリン分泌は残存しており,肝性糖尿病およびHC投与の影響と考えた.退院後に急激な血糖上昇を認め,6週間でインスリン分泌は大幅に低下しirAEによる急性発症1型糖尿病と診断した.抗PD-L1抗体投与後に2系統の内分泌障害を相次いで発症し,インスリン分泌低下の経過を観察しえた貴重な症例である.