2015 年 58 巻 11 号 p. 842-849
症例は72歳男性.45歳時に糖尿病と診断され経口血糖降下薬を開始,69歳時に混合型インスリンを導入された.HbA1cは8.8~9.8 %であったが徐々に早朝の低血糖が出現し,不安定な血糖変動の原因としてインスリン治療中に生じたインスリン抗体(抗体結合率95.5 %)を認め,Scatchard解析にて抗体は高結合部位数,低親和性を有していた.内因性インスリン分泌の著明な低下のためにインスリンの中止は困難であったが,インスリン製剤の変更や施注回数の調整を行うことで血糖変動ならびにインスリン抗体の性質は改善した.経過中,持続血糖モニター(CGM)による血糖変動の把握が有用であり,インスリン製剤へのリラグルチド追加の効果を確認した.また,Scatchard解析にて抗体の性質の変化を長期間にわたり観察することで,安定した血糖変動を維持することが可能であった.