2021 年 64 巻 4 号 p. 284-290
褐色細胞腫はしばしば耐糖能障害を合併し,病態にはインスリン抵抗性と分泌抑制の関与が指摘されているが,糖尿病ケトアシドーシス(DKA)を発症する例はまれである.我々は糖尿病の診断と薬物治療が高血圧治療に十数年先行し,経過中に診断されたパラガングリオーマ1例と褐色細胞腫1例を経験した.前者はケトーシスの既往はないがインスリン依存レベルのCペプチド低値を認め,後者は典型的な褐色細胞腫クリーゼを伴わない糖尿病ケトーシス・DKAを発症しketosis-proneの状態であった.組織学的にソマトスタチン陽性細胞は少数で,その他既報の褐色細胞腫合併DKAに認められる特異な病態を認めなかった.術後は2例ともインスリン分泌が改善したもののインスリン治療の継続を要した.インスリン低分泌を特徴とする糖尿病に誘因の明らかでないDKAを認めた場合,本疾患が鑑別診断の一つとなることが示唆された.