2025 年 68 巻 10 号 p. 393-399
症例は72歳男性.70歳時に多発肺転移を伴う膵癌と診断され,化学療法を施行したが病勢の進行を認めた.自費診療で陽子線治療を行い,膵癌と肺転移巣は縮小した.がん悪液質による食思不振と体重減少を認め,アナモレリン塩酸塩が開始された.開始時,糖尿病診断歴はなく,デキサメタゾン投与もなかった.開始3週後より高血糖症状を認め,41日目に著明な高血糖を伴う糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を発症し緊急入院した.アナモレリン塩酸塩中止後,血中Cペプチドの上昇を認め,最終的に糖尿病治療薬を使用せずに血糖コントロールできた.アナモレリン塩酸塩開始後にDKAを発症した症例は2例しか検索できず,糖尿病の診断や加療,デキサメタゾン投与が行われている症例であった.本症例は両者がなく,アナモレリン塩酸塩単独でDKAを発症させた可能性があった.アナモレリン塩酸塩を担癌患者,特に膵癌患者に投与する際は注意が必要と考えた.