本研究では,組織の意思決定モデルであるゴミ箱モデルをマルチエージェントシミュレーションに拡張し,組織の意思決定傾向はもちろん,コスト・時間の観点から組織パフォーマンスを分析し,実務的なインプリケーションを導出することを目的としている.ゴミ箱モデルは組織の意思決定が参加者・問題・解決策・選択機会の偶然の一致によりもたらされるとする理論であり,その意思決定は「見過ごし」や「やり過ごし」といった「問題解決」以外の結果をもたらすことを主張する.しかし,シミュレーション結果等に疑義があり,組織の意思決定をうまく表現できていないと批判されている.本研究は先行研究を通して,これらの批判を包含しつつマルチエージェントシミュレーション化に際して必要な改修を行った新たなゴミ箱モデルを開発するものである.新たに開発したActiveなゴミ箱モデルによるシミュレーションから組織サイズ・意思決定者の手掌範囲・組織構造の条件で組織パフォーマンスを分析した結果,組織サイズが小さいと組織構造が効率をもたらすこと,意思決定者の手掌範囲が狭い方がより効率がよいことがわかった一方で意思決定者の手掌範囲を広げると著しく効率が悪化すること,組織サイズが大きく手掌範囲も拡大していると組織構造によって効率が悪化すること等を明らかにした.