観光学評論
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ベトナム戦争期の米軍帰休兵と熱海
阿部 純一郎
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2025 年 13 巻 1 号 p. 3-17

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抄録
本稿は、ベトナム戦争期に休暇で日本を旅行した米軍帰休兵に注目し、彼らが日本社会に与えた経済的・社会的インパクトを再評価するとともに、日本の観光旅行史のなかで帰休兵問題が周辺化されてきた理由を考察する。まず帰休兵の種類として、①軍の休暇旅行プログラム(R&R)を利用して日本に訪れる場合と、②第七艦隊乗組員が休暇目的で日本に寄港する場合を区別する。次に、帰休兵が多く訪れた熱海市を例に、行政機関と観光業界がいかなる受入体制を構築したかを論じる。また、熱海では反戦・平和団体が、①帰休兵流入に伴う性病などの伝染病拡大と、②米軍の戦争を支える保養地提供に抗議してデモを起こし、最終的に、帰休兵問題が国会で議論される政治的イシューとして発展していく過程を追う。最後に、反対派の批判を抑えるため、政府と観光事業者がいかなる主張を展開し、帰休兵受け入れを正当化したかを分析する。特に本稿では、帰休兵が本来的にはらむ《戦争-観光》の結びつきを切断するレトリックに注目し、この切断により、保養地提供を通じた日本の戦争協力の現実だけでなく、帰休兵に対する日本の入国管理・検疫手続の必要性も否定されたことを明らかにする。
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