観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
Print ISSN : 2187-6649
観光文化と伝統芸能
演じられる文化の表象とリアリティ
川森 博司
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2019 年 7 巻 2 号 p. 135-140

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抄録

伝統芸能は、近代化のプロセスの中で再帰的に捉えなおされ、時間と空間を分離して、観光の場で演じられるようになってきた。本稿では、伝統芸能が観光の対象となっていく際の表象のあり方と、実際に観光の場で演じられる際の地元住民にとってのリアリティのあり方を検討し、観光の場において伝統芸能がどのような力をもっているかを観光客の経験のありようを軸に考察した。本来の場と観光の場を対立するものとして捉える見方については、今や地元住民が二つのリアリティを生きていると捉えるのが有効であることを示し、伝統芸能の観光がリピーターを生み出す仕組みについては、観光客の現地でのフロー体験がその要因となっている可能性を提示した。フロー体験は専門家のみが体験できるという議論があるが、伝統芸能に触れる体験は専門家のフロー体験と連続する側面をもっており、それがリピーターを生み出す仕組みを理解するためには「快楽(pleasure)」と「楽しみ(enjoyment)」を区別して考察する必要がある。「楽しみ」は積極的な注意の集中から生じるのであり、伝統芸能は特定の人々にとっては、そのような注意の集中を生み出す力をもっているのである。

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