抄録
【背景】慢性炎症性腸疾患に関する研究は、粘膜免疫応答を主体として展開されてきたが、その炎症は消化管筋層部にもおよぶことが知られており、慢性腸炎疾患時に併発する消化管運動機能障害の分子機構を究明するには、消化管筋層部での炎症応答を解析することが必須である。【目的】TNBS誘発結腸炎モデルラットを用いて、腸炎に伴う消化管筋層部炎症応答と消化管運動機能障害との関係について解明することを目的とした。【結果】TNBS投与2日後において、粘膜上皮は脱落し、多数の炎症性細胞の浸潤が粘膜と筋層に認められた。TNBS投与7日、14日と次第に炎症像は軽減した。好中球浸潤の指標としてMPO活性を粘膜と筋層に分けて測定したところ、TNBS投与により粘膜、筋層の両者で顕著なMPO活性の上昇が認められ、TNBS投与14日目でも有意に増加していた。TNBS投与後2日目における各種炎症性メディエーターのmRNA発現は、筋層部、粘膜部ともに同等に上昇していたが、TNBS投与後7日目では完全に消失していた。筋原性の収縮は、TNBS投与2日目から顕著な抑制が認められ、この抑制はTNBS投与14日目でも持続していた。これに対して、ペースメーカー細胞であるカハール介在細胞(ICC)の機能の指標となる平滑筋の自発性収縮頻度は、TNBS投与7日目までは消失していたが、14日目では有意に回復していた。ICCのネットワークはTNBS投与により崩壊したが、機能の回復に合わせてTNBS投与14日目ではネットワークの回復が認められた。【考察】TNBS誘発腸炎において筋層部でも粘膜部に匹敵する炎症応答が生じていることが明らかになった。しかし、炎症性メディエーターの発現は病態初期で顕著であった。ICCと筋原性の機能障害は、この炎症性メディエーターの発現に対応して生じるが、筋原性の機能障害はICCの機能障害に比べて長期にわたり持続することが明らかになった。