抄録
【目的】昆虫成長調節剤のdicyclanil(DC)は非変異原性ながら雌マウス肝に催腫瘍性を有し、その発がん機序に酸化的ストレスの関与が示唆されている。そこで今回、DCの発がん用量を雌雄のgpt deltaマウスに投与して、酸化ストレスマーカーの変動ならびにin vivo 変異原性を検索した。【方法】雌雄6週令のgpt deltaマウスに0.15%の濃度に混じた飼料を13週間自由に摂取させ、肝臓中のチオバルビツール酸反応物質(TBARS)ならびにDNA中の8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)レベルを測定した。また、gpt およびSpi- mutation assayを実施した。【結果】TBARSレベルはいずれの群においても変化は観察されなかった。8-OHdGレベルは雌雄ともに投与群で有意に高値を示した。Spi- mutant frequency(MF)には投与による変化は観察されなかったが、gpt MFが雌の投与群で約5倍と有意に増加した。【考察】今回の結果から、非遺伝毒性発癌物質に分類されているDCは、標的臓器のマウス肝において酸化的DNA損傷を引き起こし、点突然変異を誘発することが明らかとなった。特に、in vivo変異原性は雌においてのみ認められ、発がん性試験結果と一致したことは、DCの発がん機序を考える上で興味深い結果となった。