抄録
動物用駆虫薬であるoxfendazole (OX) は非遺伝毒性発がん物質であり、げっ歯類肝に対して発がん性を示すことが報告されているが、その発がんプロモーション過程における分子メカニズムは不明である。そこで本研究では、OXの肝発がんメカニズムを解明することを目的として以下の予備的検討を行った。6週齢の雄性F344/N slcラットにOXを0及び500 ppmの濃度で3週間混餌投与した。投与終了後に動物をエーテル麻酔下で採血し、殺処分後肝臓を採取し、血液生化学検査、病理組織学的検索、CodeLinkTM Bioarray Rat WG (GE Healthcare Bio-Sciences) を用いた網羅的遺伝子発現解析並びにreal-time RT-PCRによる遺伝子発現の定量的解析を実施した。血液生化学検査では、肝障害を示唆する変化は認めらなかった。病理組織学的検索では、OX投与群において小葉周辺性の肝細胞肥大並びに脂肪変性が観察され、肝相対重量の有意な増加 (130%) が確認された。網羅的遺伝子発現解析の結果、OX投与群では基礎飼料のみを与えたラット肝臓と比較して2倍以上の発現増加が認められたものが426遺伝子、0.5倍以下の発現低下が認められたものが121遺伝子得られ、酸化的ストレス[glutathione S-transferase, Yc2 (Gsta2; 4.8倍)、NAD(P)H dehydrogenase, quinone 1 (Nqo1; 2.5倍)]、細胞間連絡・細胞骨格[Signal transducer and activator of transcription 3 (Stat3; 2.3倍)、β-catenin (Catnb; 0.4倍)]、アポトーシス[Calpain 2 (Capn2; 2.6倍)、Tumor necrosis factor (ligand) superfamily, member 10 (Tnfsf10; 2.3倍)] に関連した遺伝子等の発現変動が認められた。以上の結果から、OXの3週間投与では肝臓に種々のストレス応答性反応が惹起されていることが示唆された。本研究では、投与期間をさらに9週間まで延長した実験を行っており、これらの動物についての解析結果も併せて報告する。