抄録
[はじめに]プロスタグランジンE2(PGE2)は広範な臓器で産生される主要プロスタノイドであり、発熱、発痛、生殖生理等に関与することが知られている。当教室では、PGE2生合成の最終段階を触媒する酵素の一つであるcPGESを同定し、本酵素がコシャペロンタンパク質であるp23と同一分子であり、Heat shock protein 90 (Hsp90)とタンパク質キナーゼCK2と三者複合体を形成し活性制御を受けることを明らかにしてきた。本研究では、cPGES/p23の生体内機能を解明するためにcPGES/p23-/-マウスを樹立し、表現型の解析を行った。
[実験方法]cPGES/p23の酵素活性に必須の9番目のチロシンをコードするエキソン2をネオマイシン耐性遺伝子で置換することによりノックアウトマウスを作製した。常法に従い、相同組換えES細胞を樹立し、キメラマウスを作製し、cPGES/p23+/-マウスを得た。
[結果・考察]cPGES/p23+/-マウスは正常に発育し30週以上生存した。cPGES/p23+/-同士を交配した結果、cPGES/p23-/-マウスは出生直前後に死に至ることがわかった。そこで、胎児の観察を行った結果、13.5日胚ではcPGES/p23+/+、cPGES/p23-/-では外観に違いはなく、胎生後期(17.5日胚~18.5日胚)のcPGES/p23-/-マウスにおいては皮膚や肺に異常が見られ、肺組織中のPGE2量はcPGES/p23+/+と比較して低下していた。胎生後期のマウスの体重はcPGES/p23+/+に比べcPGES/p23-/-マウスで有意に減少していた。以上の結果から、胎児期ではcPGES/p23を介して産生されるPGE2が発生や分化に必須の役割を果たしていることが想定され、本酵素の欠損や機能障害が生殖異常を引き起こす可能性を示唆している。