抄録
【目的】薬剤性間質性肺炎の発症は患者の QOL を低下させるが,その発症機序に関する報告は少ない. なかでもメトトレキサート(MTX)は間質性肺炎(IP)の副作用報告が多く, 危険因子として糖尿病(DM)の罹病(4.06倍)が報告されている.そこで本研究は,メトトレキサート誘発間質性肺炎を解明するために,in vivoおよびin vitroにてDMの関与を検討した.【方法】In vivo : C57BL/6 マウス(雄性,7-9 週齢) に水またはMTX (3 mg/kg)を 1 日1 回連日経口投与し,薬物投与 7,14,21 日後の肺傷害度をHE 染色, 抗vimentin 抗体および肺間質密度を定量して評価した.DMマウスはstreptozotocin誘発DMモデルを用いた.In vitro : 初代マウス肺胞上皮細胞(MAEC)ならびに肺線維芽細胞(MLF)を単離し, 細胞増殖能に対するMTXとglucose濃度の影響をXTT assay法にて検討した.【結果および考察】MTX 21日間投与群では水投与群と比較して,明らかな肺胞間質密度の増加ならびに肺線維芽細胞の増殖が観察された.これらの結果は臨床で報告されている IP の所見と一致しており, MTX 経口投与により肺線維化の発症が認められた.MTXを投与した正常およびDM マウスの肺胞間質密度は水投与群に比べ共に増加したが, 両群間には明らかな差はなかった.また, MAECとMLFの細胞生存率は共に MTX の濃度依存的に低下(生存率:MAEC<MLF)し,高 glucose 状態下では細胞増殖が促進された(増殖率:MAEC<MLF).これらのことからMTX は直接細胞に作用して線維化を誘導するのではなく,MTX が肺胞上皮細胞を傷害した結果,肺胞上皮細胞の下層に存在する肺線維芽細胞が過剰増殖して線維化を生じる可能性が考えられた.さらにこの過程は,糖尿病合併時に助長されることが示唆された.