抄録
[目的] Aldose reductase inhibitorである化合物CP-744809を用いたラット6ヶ月毒性試験にて、用量依存性網膜光受容体細胞層(retinal photoreceptor cell layer, RPCL)の消失が観察され、RPCLにおける当障害が本化合物の化学的性状に由来した活性化酸素(ROS)産生能に影響している可能性が示唆された。そこで本研究ではROS scavenger関連検索を基としているIn Silico光毒性評価法およびIn Vitro 3T3 neutral red uptake phototoxicity test (3T3試験)を用いて本化合物の光感受性評価を実施するとともに、RPCL消失のメカニズム解明の一環としてROSの生成について検討を行った。
[方法] In silico光毒性評価は分子共役構造部位の電子励起の起こり易さ(HOMO-LUMO gap energy)をSoftware-Jaguar 5.5にて数値化することによって実施した。3T3試験はOECD guidelineに準拠して行った。CP-744809のROS生成能については3T3試験系にH2O2と・O2-のscavengerであるMannitolあるいは一重項酸素(1O2)のscavengerであるHistidineを添加することにより測定した。
[結果と考察]In silico光毒性評価法(HOMO-LUMO gap energy<10.5 eV)および3T3試験(MPE>0.15)のいずれにおいてもCP-744809の光毒性が認められた。CP-744809の光毒性はROS scavengerであるHistidineあるいはMannitolを添加することにより抑制され、特にHistidineの作用は顕著であった。網膜障害に光受容体細胞における1O2の生成が関連することが報告されていることから,ラットで認められたCP-744809投与によるRPCLの消失はその一因として本化合物が光を吸収した際に生じる1O2の生成に起因する可能性が示唆された。