抄録
Phosphodiesterase(PDE)III阻害薬は、心筋細胞のcAMPを上昇させることにより心収縮力を増強することが知られており、イヌにおいて冠動脈の内膜肥厚、外膜の線維化等の血管病変を誘発する。この病変がイヌで特異的に発現するとされていることを確認するため、選択的で強いPDE3A/3B 阻害活性を有する化合物Aをサル及びイヌに反復静脈内投与し、本病変の発現と曝露との関係を両種で比較検討した。
【方法】 化合物Aの20及び40mg/kg/dayを雄性のビーグル犬(5月齢、体重9~11kg)及びカニクイザル(3-5歳齢、体重3.6~5.4kg)にそれぞれ1週間反復静脈内投与した。投与容量は両種とも4mL/kg、投与速度はイヌで10mL/min、サルで3mL/minとした。初回及び最終投与の投与前及び投与後0.5, 1及び2時間に心電図検査を実施し、心機能への影響を評価した。最終投与翌日に剖検を実施し、摘出された心臓は、重量測定後に10%中性緩衝ホルマリンで浸漬固定した。病理組織検査は冠動脈を含む7箇所から作製されたH-E染色標本について光顕観察を行った。また、初回及び最終投与の投与前及び投与後1, 2, 5, 10, 30, 60分, 1, 2及び4時間に採血を行い、血漿中濃度を測定した。
【結果及び考察】イヌでは投与後に心拍数の増加及びPR間隔及びQT間隔の短縮が認められ、病理組織学的には心内膜の出血、心筋の変性・壊死或いは線維化等の変化に加え、冠動脈周囲に出血、細胞浸潤、外膜の線維芽細胞増生等が認められた。サルにおいても投与後の心拍数増加及び心筋の変化(出血、壊死等)が認められたが、冠動脈には何ら変化は認められなかった。サルの曝露量(Cmax及びAUC0-4h)はイヌで冠動脈病変が発現した曝露量を上回っていたことから、PDEIII阻害薬による冠動脈病変の発現はイヌに特異的である可能性が示された。