抄録
ラットを用いる安全性試験ではSD,F344等の系統が汎用されており,化合物に対する反応性に系統差が現れる可能性がある。本検討では,F344(DuCrl:Crlj)及びCrl:CD(SD)(以下SD)の2系統について,3種の肝発がん物質を28日間投与し,肝臓の遺伝子およびタンパク質発現プロファイルから化合物に対する系統間差について比較した。[方法]各系統のラット(雄,5週齢)にN-Nitrosomorpholine(NM)10 mg/kg,Safrole(SF)300 mg/kg,2-Acetylaminofluorene(2-AAF)6 mg/kgをそれぞれ28日間反復経口投与し,非絶食条件下で肝臓及び血清を採取して,血液生化学及び病理学的検査を行った。更に同一個体の肝臓組織からRNA及びタンパク質を抽出し,GeneChipによる遺伝子発現解析及び2D-DIGE法を用いたプロテオミクス解析を実施した。[結果及び考察]組織病理学的検査により,NMでは肝細胞の単細胞壊死並びに小葉中心性肝細胞好酸性化及び炎症性細胞浸潤が,SFでは小葉中心性肝細胞好酸性化並びに肝重量の増加を伴うびまん性肝細胞肥大が,2-AAFでは肝重量の増加を伴わないびまん性肝細胞肥大が,それぞれ両系統で共通して認められた。3化合物のいずれかで対照群に対し±2倍(遺伝子)及び±1.5倍(タンパク質)以上変動したプローブ/スポットを選択し,クラスター解析を実施したところ,遺伝子・タンパク質とも化合物同士のクラスターを形成した。一方,系統依存的に変動した遺伝子オントロジーとして,SDでは抗原提示,ステロイド代謝,F344ではアポトーシスの負の制御,アルコール代謝,グリコーゲン生合成等に差がみられた。これらの差は毒性メカニズムやバイオマーカーを探索する場合に有用な知見であると考えられた。