日本トキシコロジー学会学術年会
第36回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S3-1
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子供の毒性学
子どもの毒性学 Overview
*菅野 純
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抄録

 毒性の重要な観点に時間経過、即座に症状が現れる「急性毒性」、繰り返し暴露されると徐々に症状が現れる「慢性毒性」、そして、暴露された時点では殆ど無症状だが時間が経つと症状が現れる「遅発性毒性」がある。子ども(胎児、新生児を含む)にとっては、急性毒性もさることながら、遅発性毒性が重要である。日本の様な先進国家では、急性毒性症状が現れる事態は事件・事故以外には殆どない。しかし、現在、我々の研究は、今までの毒性学では検出が難しいと思われる遅発性毒性を引き起こす可能性を示唆している。その際の標的のひとつが脳である。生き物の脳はコンピュータに喩えると、電源ONの状態で組み上がると見る事が出来る。組み上げの調整や配線の完成にシグナルが利用されている様である。その段階で外界からシグナルを乱すと、脳の微細構築に影響が出ることが想定される。この場合のかく乱は、脳内の各種受容体に外来性物質が結合することで十分であると考えられ、神経細胞を直接殺す強力な神経毒や、高濃度暴露の必要がない。
 この様な状況は、脳以外の臓器にも少なくとも部分的に当てはまる事が考えられ、それ故に、暴露直後には症候が見られない場合でも、成長後に遅発性毒性として顕在化することを考慮した子どもの毒性学の構築が急がれる。
 小児医療現場には、医薬品のオフラベル使用、抗がん剤に代表される二次的影響(後遺症、或いは初発悪性腫瘍が完治した際の第二の腫瘍の発生の問題等)、注意欠如多動性障害などの小児精神疾患の増加の問題等、毒性学と直結する問題が多い。催奇形性の分野では、サルを用いた試験の結果の方がラットやウサギを用いた際の結果よりもヒトへの外挿性が高い様に直感されるが、その様な比較研究はここ数十年間進捗が無く、最新の分子毒性学を駆使した検討は試みられていない。この様に子どもの毒性学には多様な問題が山積している点を強調したい。

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© 2009 日本毒性学会
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