日本トキシコロジー学会学術年会
第36回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S3-3
会議情報

子供の毒性学
脳発生-発達期の神経シグナルかく乱による遅発性中枢影響解析 -幼若期雄マウスへのトリアゾラム投与による学習記憶障害について-
*種村 健太郎松上 稔子五十嵐 勝秀相崎 健一北嶋 聡菅野 純
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 胎生期~幼若期は脳の発生期~発達期に相当し、遺伝子情報に基づく基本構造の形成と共に、神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナルによって神経ネットワークが構築される時期である。従って、この時期の化学物質暴露による神経シグナルかく乱は、脳の神経ネットワークの形成異常を誘発し、成熟期の異常行動として顕在化する脳の高次機能障害を惹起しうる。従来の成熟動物を主対象とした神経毒性試験では、この様式の異常を検出し難いため、我々は(1)暴露及び解析を行うタイミング、(2)情動-認知行動解析、及び(3)神経科学的物証の収集、の最適化による遅発性中枢神経毒性の検出と、そのメカニズムの解明を進めている。今回、GABA受容体シグナルをかく乱するモデル化学物質として、睡眠導入剤の一つ、トリアゾラムの結果を報告する。  胎生14.5日齢(胎生期)、生後2週齢(幼若期)、及び生後11週齢(成熟期)のマウスに対して、トリアゾラム(1mg/kg)を単回強制経口投与(胎生期は妊娠マウスへの投与による経胎盤暴露)した。いずれの投与群においても、群飼い(4匹/ケージ)飼育環境下での相互関係、及びハンドリング時の反応に異常を認めなかったが、生後12-13週に実施した情動-認知行動解析バッテリー試験のうち、条件付け学習記憶試験において、幼若期投与群に短期記憶形成能と場所-連想記憶能の低下が認められた。更にPercellome法による網羅的遺伝子発現解析から、同群の海馬でグルタミン酸受容体遺伝子の発現抑制が示された。これは学習記憶障害を裏付ける神経科学的物証であり、後シナプス機能低下が推察された。  本結果は、幼若期のトリアゾラム暴露が遅発性中枢毒性を誘発する事を示唆するものである。国内では「小児への安全性は確立されていない」と注意喚起はされているものの、小児睡眠障害の治療薬についてのより慎重な対応が必要であると考えられる。

著者関連情報
© 2009 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top