抄録
【目的】抗癌剤シスプラチンによる腎障害には、活性酸素や細胞内カルシウム濃度の変動が関与している。一方、活性酸素がMAP kinaseの一つであるERKの活性化を介して細胞機能へ影響を及ぼすことが知られている。そこで、我々はシスプラチンによる腎障害へのERKの関与と活性酸素および細胞内カルシウムとの関係について検討した。
【方法】実験には培養腎上皮細胞株LLC-PK1を用いた。細胞はシスプラチンを含む培地で5時間培養後にシスプラチンを含まない培地と交換し、さらに一定時間培養を続けた。シスプラチン曝露一定時間後、細胞内の活性酸素は蛍光色素法により、ERK活性はウエスタンブロット法によりそれぞれ検出した。細胞障害は細胞からの乳酸脱水素酵素(LDH)遊離率を指標にし、細胞内カルシウムの関与は細胞内カルシウムキレーターBAPTA-AM用いて調べた。
【結果】シスプラチンは、曝露48時間後に細胞からのLDH遊離率を増大させた。細胞障害に先駆けてシスプラチンは、曝露5時間後より時間依存的に細胞内の活性酸素産生量を増大させ、ERK活性を曝露8時間後に一過性に上昇させた。このシスプラチンによるERK活性増大は、24時間後にはコントロールレベルに戻った。抗酸化剤Tempolは、シスプラチンによる活性酸素産生増大およびERK活性化を抑制した。ERK活性を阻害するMEK阻害剤U0126は、シスプラチンによる細胞障害を抑制した。カルシウムキレーターBAPTA-AMは、シスプラチンによる活性酸素産生増大や細胞障害およびERK活性の上昇をいずれも阻害した。
【考察】培養腎上皮細胞LLC-PK1において、シスプラチンは活性酸素産生増大に続いてERKを活性化させ、細胞障害を引き起こすことが示唆される。また、シスプラチンによる活性酸素産生増大に細胞内カルシウム濃度の上昇が関わっている可能性が考えられる。