抄録
【目的】ラットでは肝代謝酵素活性に明瞭な雌雄差が認められ、特にI相系薬物代謝酵素の性差には成長ホルモン(GH)の分泌様式の性的二型性、すなわち、雄における規則的なパルス状分泌、雌における不規則かつ低振幅な持続的分泌が、それぞれ影響することが知られている。一方、ヒト成長ホルモン(hGH)遺伝子を導入した雄性トランスジェニック(TG)ラットではそのGH分泌様式が雌型の特徴を有することが報告されており、このモデル動物を用いることで生物学的には雄でありながらGH分泌様式のみが雌型化した条件下での検討が可能となる。そこで今回、GH分泌様式の雌型化が肝代謝酵素関連遺伝子の発現にもたらす影響を詳細に調べるために、雄性のhGH導入TGラットにおける肝遺伝子発現プロファイルを日内変動因子も考慮して精査した。
【方法】雄性のTGおよび野生型ラットより、明期および暗期の中間点(12時間明:12時間暗の照明環境)で肝臓を採材して、マイクロアレイ解析を行った。得られた遺伝子発現データよりTGラットと野生型ラットの比較で有意に変動した遺伝子群を抽出し、パスウェイ解析を行った。また、雌雄の野生型ラットを用いて肝代謝パスウェイの性差を別途解析して比較検討した。
【結果・考察】薬物代謝酵素関連遺伝子の発現は、TGラットでは野生型と比較して雌型化していることが明らかとなった。この結果から、生物学的に雄であるという要素よりもGH分泌様式の方が肝代謝酵素関連遺伝子発現の性差を決定する上で重要であると考えられた。また、脂肪酸代謝、C21-ステロイドホルモン代謝などのプロファイルもTGラットで概ね雌型にシフトしていることが明らかとなったので、本発表ではこれらの結果もあわせて報告する。