抄録
【目的】血中尿素窒素及びクレアチニンは非臨床試験の腎障害マーカーとして汎用されているが,検出感度は低く,機能的・器質的な腎障害が進行してから変動することが知られているため,より初期病変を検出できる新規のバイオマーカー導入が重要視されている。
2008年6月にFDA及びEMEAから,非臨床試験における腎毒性評価に有用な7種類の推奨マーカー(Kim-1,Cystatin C,Clusterin,Total protein,Albumin,β2-microgloburin及びTFF-3)が提唱され,毒性評価法の拡充が期待されている。本試験では,尿細管障害または糸球体障害を誘発する物質をラットに投与し,腎障害マーカーの変動と病理組織学的所見の関連性を精査した。また,前述の推奨マーカーに加え,その他数種の腎障害マーカーについても検討を行った。
【方法】雄6週齢Wistar Hannover (GALAS) ラットに対して,ゲンタマイシンを7日間反復静脈内投与またはThy-1抗体を単回静脈内投与し,尿検査,血液化学的検査及び腎臓の病理組織学的検査を投与後2,4及び8日に実施した。尿検査は,薬剤投与後0-6時間及び6-24時間の蓄尿を用いて測定を実施した。
【結果及び考察】ゲンタマイシンを投与したラットでは,近位尿細管障害に特異性の高いKim-1,Cystatin C,GST等の上昇が認められた。また,Thy-1抗体を投与したラットでは,糸球体障害に特異性の高いAlbumin,Total protein等の上昇が認められた。これら腎障害マーカーは血中尿素窒素及びクレアチニンの上昇に比べ,ゲンタマイシン及びThy-1抗体投与後早期から明らかに上昇しており,初期腎障害の毒性評価に有用であると考えられた。