抄録
【目的】ANPとBNPは、利尿作用と血管拡張作用により体液循環量の調節を行なうNa利尿ペプチドの代表であり、ANPは主に心房で、BNPは主に心室で産生・分泌され、ヒトでは心不全の重症度評価や予後判定因子として臨床応用されている。一方、サル類の循環器に関する臨床研究はほとんど実施されておらず、カニクイザルにおけるANP、BNP値の有用性に関する報告はない。
【方法】 霊長類医科学研究センターにて循環器検査を実施したカニクイザル246頭のデータを用いた。循環機能に異常のみられない正常群(183頭;♂80頭、♀103頭)と心疾患群(63頭;♂31頭、♀32頭)に分類し、ANP値とBNP値を比較した。また、年齢別、体重別、雌雄別にも分析を行った。
【結果及び考察】 今回の実験で得られたカニクイザルのANPの基準値は、25.1±16.5pg/ml、BNPの基準値は、5.6±6.3pg/mlであった。この基準値外のサルは、ANPで0.01%、BNPでは0.005%であり、カニクイザルの正常な基準値が得られたものと思われる。また、心疾患群のANP値は55.4±50.0pg/ml、BNP値は32.8±44.1pg/mlであった。さらに得られた測定値を、年齢別、体重別、雌雄別に分類し、グラフ化して検討を加えたところ、正常群ではANP、BNPともに、どの分類別においてもほぼ同一の値であったのに対し、心疾患群では雌雄差はみられないものの、ANP、BNPともに年齢および体重の上昇に伴って値の増加傾向がみられた。これは加齢や体重の増加に伴って心筋の線維化がすすみ、心機能が徐々に低下するためと考えられる。これらのことからカニクイザルにおいても、ANPならびにBNP値はヒトと同様に、心疾患の診断に有用な指標となる可能性が示唆された。