抄録
安全性バイオマーカー探索を目的とする産学官の共同研究であるトキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクトでは,約150の薬剤投与による肝,腎毒性データ及び遺伝子発現データ,血漿等のサンプルを蓄積してきた.これらの研究成果にマイクロRNA(miRNA)を組み合わせることにより,有用な安全性バイオマーカー探索を試みている.
アセトアミノフェン(APAP)を投与したマウス血漿のmiRNAマイクロアレイ解析から,miR-122等の増加が報告され(PNAS. 2009 106, 4402-4407),血漿中miRNAが毒性バイオマーカーとして有用である可能性が示された。miRNAには臓器特異性の高いものが多く,ヒトと実験動物においても比較的配列が保存されており,測定も技術の進展により容易になった.このため,非侵襲的に採取できる血漿に含まれる各臓器由来のmiRNAは,ヒトへの外挿性にも優れた毒性バイオマーカーへの応用が期待できる.
我々は血漿中miRNAを臨床試験における急性毒性バイオマーカーとして応用することを目的に,検討を進めている.本研究では,まず肝障害に伴った血漿中miR-122の増加について,ラットでの再現性及び用量相関性を確認した.APAP及びTGPデータベースより肝障害が顕著な数種の化合物について,ラット(Crl:CD (SD)IGS;12週齢)で投与後24時間までの経時的なサンプリングを行い,血漿中miR-122,血液生化学及び肝病理組織学的検査を行った.いずれの化合物においても,投与後9から24時間において肝障害が確認され,miR-122量は対照群の数百倍が検出された.肝障害の認められていない動物のmiR-122量は安定しており,急性肝障害バイオマーカーとしての有用性が検証された.
現在,それぞれの臓器で重複なく特異性が担保された,毒性バイオマーカーに理想的なmiRNAを選定するため,ラットにおけるmiRNAの臓器分布に関するデータを採取しているが,今回はその取り組みについても合わせて紹介したい.