日本トキシコロジー学会学術年会
第38回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S2-1
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シンポジウム2
昨年DILI(薬剤誘発性肝障害)の事例で紹介されたシステムバイオロジーの結果を踏まえた,臨床でのDILIリスク因子検証へのアプローチ
*蓮沼 智子
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抄録
薬剤性肝障害は薬物療法を受ける患者においても、新薬の開発においても最も重要な問題の一つである。薬剤性肝障害に感受性の高い患者を予め選択する事ができれば、薬物療法や、新薬の開発において、大変有用であると考えられる。現在までに、遺伝学的、薬物動態学的アプローチなどが検討されているが、臨床上、充分に有用な手段は解明されていない。
近年、メタボノミクスを用いたAnderssonらによる報告から、血漿ピルビン酸濃度が、薬剤性肝障害の予知もしくは、肝障害の早期発見に有用である可能性が示唆された。
彼らの報告によると、血清ピルビン酸濃度が低い患者において、抗凝固剤であるXimelagatranによる薬剤性肝障害の発現が多い事、またin vitroの実験により本剤による肝細胞障害がピルビン酸濃度の減少により顕著になったことから、臨床における肝障害の早期発見マーカーの可能性が示唆された。
ピルビン酸は解糖系の終末産物であるとともに、アラニンを通じてアミノ酸代謝と関連し、また、オキザロ酢酸(OAA)のTCAサイクルへの代謝や脂肪酸代謝などに関係する。したがって,ピルビン酸の血中濃度は栄養状態、各種臓器(とくに筋肉,肝臓)の代謝状態などに影響される。
薬剤性肝障害の原因は、投与される薬剤により様々と考えられるが、今回、我々はこのピルビン酸に注目し、薬剤性肝障害との関連性および早期発見マーカーとしての可能性についての検討を計画している。
ピルビン酸は比較的不安定な物質であるため、薬剤性肝障害と血漿ピルビン酸濃度の関連についての臨床研究を進めるにあたり、予備的研究として、採血方法や測定方法が血漿ピルビン酸濃度の測定結果に与える影響について検討した。さらに現在、臨床試験においてピルビン酸測定するとともに、当法人内の医療施設において発現した薬剤性肝障害においてもプロスペクティブな観察を行う予定である。
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© 2011 日本毒性学会
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