抄録
欧米の影響を受け、日本でも動物実験代替法(以下、代替法と記す)のニーズが社会的にも、経済的にも増している。動物実験の3R(削減、苦痛の軽減、置き換え)を促進することには、総論として賛成される方が多いが、各論となると種々の問題点が挙げられ、その必要性に苦言を呈する方が多い。特に、安全性評価の方法となると、一つの代替法のみで評価はできず、物性、構造活性相関や代替法の組み合わせで評価せざるを得ない。しかも、現在主流である局所毒性試験(眼刺激性、皮膚腐食性、皮膚刺激性)の代替ならばともかく、より複雑な反復投与を伴う毒性試験への利用となると、生体がブラックボックスであることもあり、何を指標とするかでさえ、絞り込めていない。本来、代替法とは作用機構が明確な方法を用いて、再現性や正確性が認められたものを行政が用いることになるが、本当に今のスタイルを続けるだけで作用機構が多岐に渡る反復投与を伴う毒性試験の代替にはどれくらいの経費と時間が必要か予想さえできないと考える。
そのような状況の中、最近、代替法という言葉自体が適切なのか疑問を感じている。まず、in vivo試験との比較、それと一致することを重視するという発想でよいのか。in vivoとの比較でin vitro試験の善し悪しを判断するのでなく、発想を転換して、従来のトキシコロジーの枠を超えたin vitro トキシコロジーを発展させられないか。その鍵は、反復適用を経時的に捕えたトキシコゲノミックスのデータ解析による作用機構の解析であると考える。具体的には、A⇒B⇒Cという生成物を追うことにより、最終的な毒性指標(生産物)でなく、初期に挙動を示す遺伝子の定量的な解析により、遺伝子を絞り込むことと考える。毒性物質に曝露された生体のブラックボックスを解明するという姿勢ことが、in vitro トキシコロジーの発展につながり、結果的には新しい動物実験に頼らない試験法の開発につながると考えている。