抄録
ヒトES細胞やヒトiPS細胞は、肝臓をはじめとするあらゆる組織細胞に分化することから、薬物の毒性スクリーニング系や再生医療等への応用が期待されている。しかしながら、従来の液性因子(増殖因子やサイトカイン等)による分化誘導法では、ヒトES/iPS細胞から肝細胞への分化効率が極めて低いこと、さらに得られた細胞も薬物代謝酵素の活性が低い未成熟な肝細胞であることが課題となっている。我々は、一過性に効率良く目的遺伝子を発現させることが可能なアデノウイルスベクターの特徴を最大限に生かして、ヒトES/iPS 細胞から肝細胞への分化過程において、肝臓の発生に重要な遺伝子を、分化の適切な時期に導入することにより、肝細胞への分化効率を比較的に高めることに成功した。即ち、ヒトES/iPS細胞由来の中内胚葉系細胞や内胚葉系細胞へSOX17遺伝子やHEX遺伝子を導入することにより、従来法と比較し肝幹細胞への分化誘導効率が飛躍的に向上した。さらに、SOX17遺伝子やHEX遺伝子を導入することにより得られた肝幹細胞を肝分化に適したHGF等の液性因子を用いて培養したところ、薬物代謝活性能などにおいて胎児期肝臓に相当した機能性のある肝細胞を分化誘導することができた。また、他の機能遺伝子の導入と組み合わせることにより、さらに高い薬物代謝活性能を有する肝細胞の分化誘導に成功し、薬物代謝活性の遺伝子発現レベルは初代培養ヒト肝細胞と匹敵するレベルであった。本講演では、我々が取り組んでいるヒトES/iPS細胞から肝細胞への分化誘導法の開発に関する研究について紹介する。