日本トキシコロジー学会学術年会
第38回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S9-6
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コリンエステラーゼ阻害物質による遅発性の中枢神経毒性
-サリンの臨床から学ぶ動物モデルの機構解析-
中枢神経系の発生-発達期における神経活動かく乱による遅発性中枢影響解析—幼若期雄マウスへのアセフェートによる成熟後の脳高次機能障害について—
*種村 健太郎五十嵐 勝秀相崎 健一北嶋 聡菅野 純
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抄録
 中枢神経系の発生-発達期は、その基本構造がDNA情報を基に形成されると共に、適切な神経活動に依存して緻密な神経回路が形成される時期である。従って、外来性の神経作動性化学物質(neuroactive xenobiotics, NX)によるこの時期の中枢神経系の神経活動のかく乱は、正常な神経回路形成を妨げ、成熟後に情動-認知行動異常として顕在化する蓋然性がある。しかしながら、従来の神経毒性試験は成熟動物を主対象とした末梢神経影響評価が中心であり、その様な遅発性の情動-認知行動異常を検出し難い。そこで、我々はNXを周産期、または幼若期投与による成熟後の情動-認知行動異常、及びそれに対応する神経科学的な物証の収集により、遅発性中枢神経毒性の発現メカニズム解析と効率的な検出システムの構築を進めている。今回、アセフェートの結果を報告する。尚、アセフェートは有機リン系殺虫剤であり、アセチルコリンエステラーゼ阻害により殺虫活性を示す。
 幼若期(2週齢)、あるいは成熟期(11週齢)の雄マウスにアセフェート(7、20、70mg/kg)を単回強制経口投与した。12-13週齢時に行動解析を実施した結果、幼若期20mg/kg投与群に不安関連行動逸脱と記憶異常が認められたが、成熟期20mg/kg投与群には顕著な行動逸脱は認められなかった。幼若期70mg/kg投与群には不安関連行動逸脱、記憶異常、情報処理能低下が認められた。成熟期70mg/kg投与群においても記憶異常が認められたが、幼若期投与群の示した異常とは質的に異なるものであった。尚、幼若期群、成熟群ともに7mg/kg投与による影響は認められなかった。70mg/kg投与群に対するPercellome遺伝子発現解析、及び免疫組織化学法による形態解析から、幼若期投与群の大脳皮質に神経細胞軸索機能異常、髄梢形成不全が生じていることが示唆された。
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© 2011 日本毒性学会
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