抄録
【目的】カニクイザルに投与操作を施すことによる好中球数増加やサイトカイン上昇は以前から報告されており,これらのパラメータ変動が試験成績の評価に及ぼす影響が懸念されている。本研究では,カニクイザルに反復静脈内投与することで,各種炎症パラメータが投与後どのように変動するかを確認した。また,投与ストレスとの関連性についても検討した。
【方法】2~3歳のカニクイザル(雄,n=10)に生理食塩液を橈側皮静脈より反復投与(週に1回,計3回)し,各投与の直前,投与後2,4,8,24,72時間及び7日に伏在静脈より採血した。採取した試料を用いて血液学的検査及び血液化学検査を実施した。なお,ストレスのパラメータとして血中コルチゾールを,炎症パラメータとしてサイトカイン及びCRPを測定した。
【結果及び考察】好中球,コルチゾール,IL-6,CRP,LD,CK,AST,ALTは初回静脈内投与24時間後までに大半の個体で上昇し,投与72時間後までに投与前とほぼ同レベルまで回復した。好中球及びコルチゾールは2回目投与以降についても各投与後に初回投与後と同程度の一過性の上昇を示したが,IL-6,CRP,LD,CK,AST,ALTについては投与回数を重ねる毎に上昇の程度が小さくなることが明らかとなった。各パラメータの相関性から炎症パラメータの一過性の上昇は,投与操作によるストレスのみに依存して惹起されるものではなく,投与操作時の拒絶等に伴う運動に関連していることが考えられた。これらの結果から,反復投与によりサルが投与操作を学習し,保定時の拒絶に伴う運動等が抑えられた結果,炎症パラメータの上昇の程度が小さくなったことが推察された。安全性試験の開始前に投与操作をトレーニングの一環として実施することは一過性の炎症パラメータ上昇抑制に有効である可能性が示唆された。