抄録
フェノバルビタール(PB)の反復投与によりラットで肝発癌が誘発されることはよく知られており,発癌にいたる過程において,細胞周期の停止に加え,アポトーシスの抑制,肝逸脱系酵素の減少ならびにメチル基転移酵素であるDnmtの発現抑制が誘発されることが知られている。我々は第27回日本毒性病理学会においてDnmt1の発現抑制において,プロモーター領域におけるE2F結合配列に対するE2f1の結合が減少することを報告し,その原因として,細胞周期の停止によるRbとの結合によりE2f1が不活化した可能性を示した。今回は,以前報告したF344ラットにPBを4週間にわたり強制経口投与した肝臓サンプルを用い,Dnmt3aを含む他の因子の遺伝子発現ならびに転写因子の結合性を解析した。RT-PCRの結果,肝逸脱系酵素であるGot1およびDnmt3aの遺伝子発現はPB投与により抑制されていた。これらの遺伝子領域およびアポトーシス関連因子であるcaspase 3にはcyclic AMP responsive element(CRE)が存在することから,ChIP assayを実施した結果,Dnmt3aのCRE領域ではリン酸化cyclic AMP responsive element binding protein(Creb)の結合が投与群において有意に減少していた。PB投与により肝臓における低酸素影響が増悪することは以前から知られており,さらに,Crebとembryogenesis必須因子であるhypoxia inducible factor 1a(Hif1a)との相互関係も報告されている。一般的に,新規メチル化酵素であるDnmt3aはembryogenesisにおいて高発現であることから,Hif1a,CrebおよびDnmt3aに何らかの関連性が考えられ,Hif1aの発現を測定したところ,投与群において有意に減少していた。また,Creb活性化に関与するprotein kinase Aの遺伝子発現においては有意な変化が認められず,またcAMP量においても有意な変化は認められなかった。以上のことから,Hif1aの発現抑制によりCrebそのものの発現が抑制されている可能性が示唆された。現在,Crebの転写制御に関して検索中である。