抄録
【背景】近年多くの尿中腎障害バイオマーカー (BM) が見出され,腎以外の臓器毒性においても,新たなBMのリソースとして尿が研究されている.一方,尿中BM濃度は尿量のバラツキに影響を受けるため補正が必要である.尿量自体による補正 (UBER, urinary biomarker-excretion rate) がGold standardであるが,代替法のクレアチニン補正 (UBCR, urinary biomarker-to-creatinine ratio) は,利便性が高く,臨床を含め広く使用されている.一方,クレアチニン (Cr) は筋組織におけるエネルギー産生の副産物であるため,筋量の変動でCrの動態が変動し,UBCRに影響を与えることが推察された.本研究では,筋量増加をモデルとし,成長期のラットにおけるUBCRの変動を検討した.
【方法】6-12週齢のSprague-Dawleyラットについて,経時的に,ヒラメ筋重量,Cr動態の項目 (血中濃度,尿中排泄量,クリアランス),9種の尿中BM,腎Cr輸送体の発現量を解析した. 【結果・考察】週齢に伴い,ヒラメ筋重量,血及び尿中Crが増加し,筋量の変動によるCr動態への影響が確認された.UBERとUBCRは尿中BM毎に固有の変動を示したが,UBERに比べ,UBCRは一様に小さな変動を示した.UBCRは尿中BM濃度を尿中Cr濃度で割った商であり,筋量増加により分母が増大したためと考えられる.尿中Cr排泄量の増加について,腎Cr輸送体Oct2の発現量及びCrクリアランスが週齢に伴って増加し,腎尿細管から分泌されるCrと糸球体で濾過されるCrの両方が関与することが示唆された. 【結論】Cr動態が変動する条件でのUBCRによる経時観察では,症状を過小評価する可能性があるため,各補正法の特性を理解した使用が必要である.