日本毒性学会学術年会
最新号
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プレナリーレクチャー
  • Stuart A. LIPTON
    セッションID: PL
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    Synaptic loss is the best neuropathological correlate to cognitive decline in Alzheimer’s disease (AD) and related dementias. Contributing factors include not only aggregated proteins such as amyloid-beta and tau, but also environmental factors such as air pollution and pesticides. These agents produce toxic stress from NOx (nitric oxide-related compounds), resulting in disruption of protein function via aberrant redox reactions on proteins, such as S-nitrosylation. Here, we describe distinct enzymes, a ubiquitin protein hydrolase (Uch-L1), a kinase (Cdk5), and a guanosine triphosphatase (Drp1), that act in concert to mediate a series of S-nitrosylation reactions from one to another. This non-canonical transnitrosylation cascade contributes to synaptic damage in AD. We show this series of reactions is kinetically and thermodynamically favored, resulting in mitochondrial fragmentation, bioenergetic compromise, and consequent synapse loss. We also develop a quantitative method based on Nernst equations for thermodynamic assessment of these redox reactions at steady state, as might be expected to occur in a chronic disease. This analysis reveals Gibbs free energies that are quite favorable for forward reaction through the transnitrosylation cascade. We conclude that enzymes with distinct primary reaction mechanisms can form a completely separate network of aberrant transnitrosylation steps. Finally, we will present potential therapies to prevent the resulting loss of synapses and cognitive function due to these aberrant transnitrosylation reactions in AD brain.

特別講演
  • 吉田 稔, 伊藤 昭博
    セッションID: SL1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    生理活性物質には、必ず細胞内に特異的な標的分子が存在する。その同定は創薬のための有用な情報となってきた。我々は標的分子を発見する方法として、遺伝学における変異を化合物に置き換えた新たな手法である化学遺伝学を確立し、エピジェネティクスを制御するヒストン脱アセチル化酵素をはじめ、多くの遺伝子発現制御因子を同定した。これらはいずれも新たな抗がん剤の重要な標的となっている。しかし、活性物質の標的分子を同定するには、多くの経験、知識、洞察などが必要であり、組織的な解析はこれまで困難であった。我々は酵母の遺伝子破壊や遺伝子過剰発現を用いたケミカルゲノミクスと動物細胞の組織的遺伝子ノックダウンによる表現型解析を用いて、バイアスのない化合物標的同定法の確立を目指してきた。さらにプロテオームやメタボローム解析を加えることにより、多くの活性物質の作用機序が組織的に明らかになることが分かってきた。本講演では化学遺伝学の歴史とその発展形であるケミカルゲノミクスの最先端を紹介する。

  • 内田 浩二
    セッションID: SL2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    食・環境を通して私たち人類は膨大な化学物質に曝される。その生涯にわたるエクスポソーム(環境因子曝露)は健康や寿命に深く関与するものと予想されている。こうした化学物質の中でも、アルデヒド類は最も身近な化合物の一つであり、食・環境因子だけでなく、脂肪酸や糖質代謝物に至るまで、生体内外に多くの生成源が存在する。特に、ブドウ糖自体もアルデヒド性を示し、多価不飽和脂肪酸の過酸化では、脂肪族アルデヒドだけでなく、α,β-不飽和アルデヒドやケトアルデヒドなど、様々な反応性(毒性)アルデヒド類が生成される。こうした毒性アルデヒドに対し、生物は解毒代謝などの防御機構を有している。一方、親電子性であるアルデヒドは、タンパク質分子上の求核性アミノ酸残基に反応し、特有の異常構造(付加体)を生成する。無数に生成される付加体構造の総和(“修飾シグネチャー”)は、生体応答の刺激として記憶され、生物応答機構の一端を担うことが予想される。付加体構造に対する最も代表的な応答機構が免疫系である。最近の研究により、ある種の自己免疫疾患では、アルデヒド修飾をめぐって不可思議な交差性を示す抗体の産生が明らかになった。例えば、DNAに対する自己抗体の過剰産生が知られる全身性エリテマトーデス (SLE)では、DNAだけでなく、毒性アルデヒド修飾タンパク質に親和性を示す二重交差性IgG抗体の存在が判明した。一方、自然免疫タンパク質として生体防御に関与するIgM抗体には、IgG抗体以上の多様性が明らかになっている。特に、発癌性が疑われるアクロレインに関しては、アクロレイン修飾タンパク質を認識するB細胞(B-1a細胞)とともにIgM抗体に関する興味深い交差性が明らかになっている。アクロレイン修飾タンパク質に対する自然免疫B細胞の存在は、生命がその誕生とともにこの毒性化合物に対して対処しなければならず、その手段として自然免疫を使う術を獲得したことを想像させる。こうした生体防御において重要な役割を果たす免疫記憶のどこかに、毒性を示すアルデヒドが存在するという事実は、健康・疾患との関係を考える上で極めて興味深い。

  • 山本 雅之
    セッションID: SL3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    KEAP1-NRF2系は、環境由来の種々のストレスに応答する制御システムである。NRF2は遺伝子発現を正または負の方向に制御する転写因子である。一方、KEAP1は毒性物質や酸化ストレスを感知するセンサーとして働く。また、KEAP1はNRF2の分解も制御する。通常、NRF2はKEAP1に捕捉され、速やかなタンパク質分解を受けるので、非ストレス状態でのNRF2発現レベルは非常に低い。一方、細胞がストレスに曝されると、KEAP1機能が障害され、NRF2は分解を免れて安定化(活性化)する。NRF2が活性化すると、ストレス防御に働く一群の遺伝子が発現誘導される。生体においてNRF2の果たす役割やその制御メカニズムは、NRF2やKEAP1の機能を種々に改変したモデルマウス系統を利用して実証されてきた。実際に、本制御系の失調は多くの酸化ストレスや炎症に関連する病態の発症や重篤化を招来する。そのため、NRF2誘導剤はこれら疾患に対する予防薬や治療薬として有望である。ところで、私たちは東北メディカル・メガバンク機構を設立し、このバイオバンクを利用して、KEAP1-NRF2制御系の研究をヒトバイオロジーへと発展させている。また、宇宙環境ストレスに対してもNRF2が防御に働くのではないかと考えて、NRF2欠失マウスの宇宙滞在実験を実施した。宇宙滞在によって、全身臓器の多くでNRF2標的遺伝子の発現が上昇しており、実際に宇宙環境ストレスがNRF2を活性化することが実証された。宇宙マウス研究のデータは、JAXAと東北メディカル・メガバンク機構が協力して構築・公開している宇宙生命科学統合バイオバンク(ibSLS)に公開されている。

  • 金子 周司
    セッションID: SL4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    我々はヒトに用いる薬物の作用とそのメカニズムの全体像は理解できていない。それは医薬品開発中に様々な受容体への親和性を包括的に測定することが不可能であり、ヒトにおける有効性や安全性調査も十分とは言えないからである。実際、ある薬物がヒトに対して知られていない有害作用あるいは有益な作用を発揮することは決して稀ではない。この講演では実際の臨床データ、特に有害事象発生例の解析を通じて薬剤の予期せぬ有益な効果を特定し、薬剤の再評価と新たな創薬標的の発見を目指した以下の成果を紹介する。

    (1)抗不整脈薬アミオダロンによる間質性肺疾患に対するトロンビン阻害薬ダビガトランの有用性とそのメカニズム

    (2)DPP4阻害性糖尿病治療薬が惹起する水疱性天疱瘡に対するリシノプリルの有用性とそのメカニズム

    (3)フルオロキノロン抗菌薬による腱障害に対するデキサメタゾンの有用性とそのメカニズム

    (4)ドパミンD2受容体刺激薬が高める強迫性障害リスクを抑制するプロトンポンプ阻害薬の神経メカニズム

教育講演
  • 吉田 武美
    セッションID: EL
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    この国は、戦後からの第1次、第2次及び第3次覚醒剤乱用期から現在に至るまで、麻薬、大麻、コカイン、向精神薬等の法規制されている薬物乱用が大きな社会問題となっている。これらの乱用に伴う薬物依存の問題に加え、薬毒物による事故や事件も相次ぎ、有機溶剤シンナー乱用が社会問題となった期間もあり、LSD乱用によるサイケ調と称された社会風潮の時期もあり、国や都道府県による法規制や一般啓蒙活動が進められている。1980年代には、合成麻薬フェンタニルの構造の一部改変や官能基の組換えなどを行って合成された違法薬物、デザイナードラッグ,社会問題を引き起こしている。   

    危険ドラッグは、2000年前後からフェネチルアミン類、トリプタミン類、ピペラジン類、亜硝酸アミル類や幻覚物質含有植物類が違法、合法、脱法ドラッグなどとも呼ばれ法規制を逃れての使用による事故や事件が多発した。呼称については、パブリックコメントを経て、危険ドラッグとの命名となり現在に至っている。その流れで、従来物質名による法規制を進めてきたこの国も、化学構造に基づいた包括指定の規制概念が2008年に導入され、一挙に数多くの物質が指定薬物として所持、使用、販売等が禁止された。しかし、包括指定を逃れるように、その後も合成カンナビノイド含有植物製品やカチノン誘導体などが現れ、中枢作用を有する各種の物質が国内外で使用されており、危険ドラッグとして指定される物質は後を絶たないのが現状である。特に、インターネットが普及し、グローバル化が進む中で、危険ドラッグ販売サイトから入手が比較的容易になっている。

    このような状況の中、国は販売店舗立入、インターネット対策、指定薬物の迅速な指定、水際対策、事犯の摘発などに取り組んでいる。東京都や大阪府はじめ全国の数多くの自治体が、危険ドラッグ類似の化学物質に関する国内外の使用実態等の情報を一早く収集し、独自に薬理作用を検証し、国内外の使用状況や毒性など提示し、専門委員会の評価結果を基に、知事指定薬物とし、次いで大臣指定薬物へと規制を行っている。現在までに、カチノン系41種、カンナビノイド系62種、LSD系5種、ケタミン系10種が知事指定薬物となった。危険ドラッグが社会問題となる一方で、法規制のある麻薬、覚醒剤、大麻などの税関での押収量が膨大な量になっている現状も周知しておくべきである。この国は中枢作用薬物の使用汚染が広範にわたっていると考えざるを得ない。

    以上のように危険ドラッグはじめ法規制薬物の乱用に関しては、国や地方自治体の規制強化や啓蒙活動により、鎮静化することもあるが、グローバル化の流れで終息するには至っていない。

    医薬品や化学物質に携わる本学会会員の皆様が、この国の薬物乱用の実態を知り、社会的対応への関心をもっていただければ幸いである。

シンポジウム1: 最新の実験動物の薬物代謝酵素知見からヒト酵素特徴の再確認へ
  • 宇野 泰広, 山崎 浩史
    セッションID: S1-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    イヌとブタは、カニクイザルと共に薬物代謝試験や安全性試験で使用される重要な動物種であるが、薬物代謝パターンがヒトと異なることがある。その一因は重要な薬物代謝酵素であるチトクロムP450 (P450,CYP) の種差であると考えられる。そこで我々は,その原因を調べるためにイヌ、ブタ、カニクイザルのP450遺伝子を網羅的に同定・解析してきた。その結果、これらの動物種にはCYP1A、CYP2D、CYP2Eのようにヒトと1対1の対応関係にあるP450のsubfamilyがある一方で、CYP2Cのように種特異的な分子種があり1対1の対応関係にないP450のsubfamilyもあった。また一部のP450分子種については基質特異性や肝P450発現にもヒトとの違いが認められている。これらのことがP450代謝におけるヒトとの種差の一因となっている可能性が考えられる。ツパイは、霊長類に分類されていたこともある動物種で主にウイルス研究で用いられているが、薬物代謝のモデル動物としての有用性を調べるためにP450の同定・解析を行っており、その結果についてもお示ししたい。本発表では、主にCYP1A、CYP2A、CYP2B、CYP2D、CYP2Eについて結果をご紹介する。

  • 清水 万紀子, 山崎 浩史
    セッションID: S1-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    フラビン含有酸素添加酵素 (FMO, EC 1.14.13.8) は、NADPH-依存的に窒素および硫黄原子を含む医薬品および生体内物質の酸化(酸素添加)を触媒する第一相代謝酵素である。ヒトFMO分子種は、アミノ酸の相同性に基づきFMO1-5が同定されている。FMO3はヒト成人肝に、FMO1はヒト成人腎および胎児肝に発現している。ヒトFMO3は疾患誘因遺伝子として作用し、その機能低下はトリメチルアミン尿症を引き起こす。非ヒト霊長類サルの肝臓および腎臓のFMO3およびFMO1の発現はヒトに類似しているが、イヌおよびブタでは肝臓にもFMO1が発現している。FMOの酸化反応はシトクロムP450と同様に分子状酸素を基質に添加するが、その至適反応条件は高pHであり、NADPH非存在下で熱に対して不安定である点が特徴となる。FMOの典型的基質であるベンジダミンN-酸化酵素活性は、ヒト、非ヒト霊長類サルおよびマーモセットならびにイヌに比較して、ブタ肝ミクロゾームで高値を示した。FMO1および3の酵素機能に着目すると、ブタではFMO1の酵素機能が高値を示した。

    雄性マウスではFMO3が発現していないことが知られている。マウスにFMO3の典型的基質を投与した場合、FMO3由来の血中代謝物濃度はヒト肝細胞移植マウスに比較して低値を示すことから、医薬品体内動態の検討には適切な動物種を選択する必要があると推察された。ヒト肝移植マウスを用いて2種のFMO3基質の同時投与後の体内動態を検討したところ、相互の影響は限定的なものと推察された。以上の知見は、FMOが代謝消失に関与する医薬品開発の基盤情報としての活用が期待される。

  • 上原 正太郎, 山崎 浩史, 末水 洋志
    セッションID: S1-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    ヒト肝キメラマウスは、薬物代謝や毒性研究のための魅力的な実験動物である。ヒト肝キメラマウスの肝臓には、チトクロムP450(P450)、UDP-グルクロン酸転移酵素、アルデヒドオキシダーゼなど複数のヒト薬物代謝酵素が発現しているが、その薬物代謝活性の解析は不十分である。本研究では、ヒト肝キメラマウスの肝薬物代謝酵素活性を明らかにするために、肝ミクロゾーム等を用いて肝薬物代謝酵素活性を測定した。ヒトとヒト肝キメラマウスの肝ミクロゾームにおけるクマリン7-水酸化活性(P450 2A酵素活性)およびフルルビプロフェン4'-水酸化活性(P450 2C9酵素活性)は類似していた。一方、P450 2D酵素が触媒するプロパフェノン水酸化反応の位置選択性はヒトとマウスで異なるが、キメラマウス肝ミクロゾームはマウス肝ミクロゾームと同様にプロパフェノン4'-水酸化を優先的に触媒した。また、キメラマウス肝ミクロゾームによるヒト特有のオランザピンN10-グルクロン酸化酵素活性(グルクロン酸抱合酵素UGT1A4酵素活性)が検出された。さらに、c-Met チロシンキナーゼ阻害剤SGX523は臨床試験で予期せぬ腎毒性が認められたが、その原因と考えられる難溶性代謝物はキメラマウス肝サイトゾルにより生成された。興味深いことに、SGX523を反復経口投与したヒト肝キメラマウスの腎臓では、腎尿細管への異物の蓄積と炎症性細胞の浸潤が認められた。総じて、肝薬物代謝酵素活性はヒトとヒト肝キメラマウスの間で類似している。ヒト肝キメラマウスを医薬品開発への有効活用には、ヒトとキメラマウスの肝薬物代謝能の相同性・相違性を理解することが重要である。

  • 山崎 浩史, 清水 万紀子, 上原 正太郎, 宇野 泰広
    セッションID: S1-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    プロトンポンプ阻害薬オメプラゾールにはヒト肝チトクロムP450 (P450) 1A2の誘導効果があるが、責任代謝酵素P450 2C19への効果修飾については十分に検討されていない。イヌ肝細胞培養系でのオメプラゾールによるP450 1A2自己誘導が判明したことを契機に、非凍結ヒト肝HepaSH細胞にて、オメプラゾールはP450 1A2に加え、P450 2C19 mRNAと5-水酸化酵素活性を2倍程度有意に上昇させることが判明した。薬物仮想経口投与後の肝ばく露と責任代謝酵素の欠損を含む遺伝子多型および野生型酵素の自己誘導効果に発生する体内動態の個人差を推定したところ、オメプラゾールの仮想肝中濃度は、血中濃度よりも2倍程度高値を示し、P450 2C19発現欠損者の仮想反復経口投与後の肝中濃度は、野生型のそれに比べて5倍高値を示した。薬物単独服用でも併用薬共存下レベルの内部曝露となりうることから、添付文書への反映等、本知見の利活用を提唱したい。一方、P450 2D6遺伝子多型に対する注意喚起があるものの、国内では遺伝子診断はなされない医薬品に注意欠陥・多動性障害治療薬アトモキセチンおよび抗うつ薬パロキセチンがある。ヒト肝移植マウスの実測アトモキセチン血中濃度から、ヒト仮想投与血中濃度曲線を作成したところ、本薬服薬小児患者実測血中濃度に一部一致した。パロキセチン前投与ヒト肝移植マウスのアトモキセチン血中濃度推移からヒトP450 2D6野生型アレルを有しないヒトのアトモキセチンおよび代謝物の血中濃度推移を予測したところ、小児患者血中濃度にほぼ一致した。以上、反復投与されるオメプラゾール体内動態に対する効果修飾として責任代謝酵素の遺伝的発現欠損と野生型の自己誘導の影響を考慮する重要性と、パロキセチン前投与ヒト肝キメラマウスから小児患者血中および尿中濃度の予測が可能であることが推察された。

シンポジウム2: 日韓合同シンポジウム:レドックスシグナルと臓器/組織毒性
  • Moo-Yeol LEE, Jung-Min PARK
    セッションID: S2-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    NADPH oxidase 2 (NOX2) represents a potential therapeutic target for inflammatory disorders. However, clinically applicable NOX2 inhibitors have yet to be available despite extensive research efforts. In our quest for NOX2 inhibitors, we focused on the regulatory subunit p40phox, which exclusively functions with NOX2, rather than the catalytic subunit gp91phox, aiming to impede the complete assembly of the NOX2 complex. Chemical compounds were designed to interfere with the interaction between the PX domain in p40phox and its ligand phosphatidylinositol 3-phosphate (PI3P), and screened for their inhibitory potential, leading to the finding of a hit DG401. DG401 exhibited inhibitory activity against NOX2 in cells within the range of 0.1–10 μM, with high selectivity over other NOX isoforms. Indeed, it disrupted the interaction between p40phox and PI3P, and prevented the recruitment of p40phox to the phagosomal membrane during zymosan phagocytosis. In animal model, it displayed oral efficacy in attenuating complete Freund's adjuvant (CFA)-induced inflammation and reactive oxygen species generation. This study provides substantial support for the conceptual rationale that the pharmacological inhibition of NOX2 serves as a viable strategy for treating immuno-inflammatory disorders. In addition, it underscores the potential of regulatory subunits such as p40phox as promising targets for selectively inhibiting NOX isoforms.

  • 西村 明幸, Xiaokang TANG, 加藤 百合, Xinya MI, 西田 基宏
    セッションID: S2-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    心筋細胞の頑健性は、その優れたレドックス反応によって支えられており、レドックス恒常性の破綻は心疾患の発症と進行につながっている。近年、これまで測定が困難であった硫黄代謝物を同定する質量分析技術が飛躍的に発展したことで、硫黄原子が複数個連続で連なった超硫黄分子(R-SnSH)と呼ばれる反応性の高い硫黄代謝物が生体内に豊富に存在していることが明らかとなり、レドックス恒常性を支える新しいプレーヤーとして注目されている。本研究では、心臓の頑健性を維持する上での超硫黄分子を中心とした硫黄代謝の役割、そして硫黄代謝の異常が虚血や親電子ストレスによる心筋の機能破綻に及ぼす影響を解き明かすことを目的とした。

    虚血や親電子ストレスによって心筋細胞内の超硫黄分子が硫化水素へと還元代謝されることを見出した。この超硫黄分子の異化反応は心筋ミトコンドリアの過剰分裂を引き起こすことで心筋細胞の収縮機能を低下させた。そのメカニズムとしてタンパク質システイン側鎖の超硫黄化に着目し、低酸素や親電子ストレスによるミトコンドリア分裂促進因子Drp1 Cys644の超硫黄化の減少がミトコンドリアの異常分裂誘導することを見出した。また、Drp1は酸化型グルタチオンGSSGによってCys644がグルタチオン化修飾されることを見出した。GSSGによるDrp1のグルタチオン化は低酸素や親電子ストレスによるDrp1活性化を抑制することで心機能障害を改善することが明らかとなった。GSSGの心筋保護効果をマウス個体レベルで評価するために心筋梗塞処置1週間後からGSSGを4週間投与した。その結果、Drp1グルタチオン化の亢進に伴い、心機能の改善が見られた。これらの結果から、超硫黄化およびグルタチオン化を介したDrp1 Cys644のレドックス修飾は心筋の虚血・親電子ストレス耐性に重要であることが示唆された。

  • 秋山 雅博
    セッションID: S2-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    Reactive sulfur species (e.g., cysteine hydropersulfide; CysSSH, and glutathione hydropersulfide; GSSH) exhibit high nucleophilicity and thus is thought to play an important role in repressing oxidative stress. However, adaptive cell responses to excess reactive sulfur stress are not well understood. Using cystathionine gamma-lyase as a CysSSH-producing enzyme overexpression to induce sulfur stress, we showed in vivo and in vitro that levels of CysSSH are strictly regulated in mice via CysSSH export from tissues and cells, suggesting an adaptive response to reactive persulfides. Interestingly, among all amino acids, cystine (CysSSCys) was found to be essential for CysSSH export from primary mouse hepatocytes, HepG2 cells, and HEK293 cells during excess reactive sulfur stress, that the cystine/glutamate transporter (SLC7A11) contributes, at least partially, to CysSSH export. We established HepG2 cell lines with knockout of SLC7A11 and used them to confirm SLC7A11 as the predominant antiporter of CysSSCys and CysSSH. We observed that the poor efflux of excess CysSSH from the cell enhanced cellular stresses induced by excess reactive sulfur exposure, such as polysulfidation of intracellular proteins, mitochondrial damage, and cytotoxicity.

    These results suggest that a cellular mechanism for maintaining intracellular reactive sulfur homeostasis via extracellular efflux of excess reactive sulfur could prevent the adverse effects of excess reactive sulfur. Our findings suggested the existence of a safeguard against excess reactive sulfur.

  • Hyoung Kyu KIM, Jubert MARQUEZ, Pham Trong KHA, JaeBoum YEOM, Jin HAN
    セッションID: S2-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    Echinochrome A (Ech A), a marine bio-product isolated from sea urchin eggs, is known to have cardioprotective effects through its strong antioxidant and ATP-sparing capabilities. However its biological effect and underlying mechanisms were not clear. Our recent studies investigated the novel effect of Ech A on mitochondria function and biology, cardiac protection against cardio toxins and cardiac contractility and Ca2+ handling. The studies figure out (1) Ech A enhances the mitochondrial biogenesis and oxidative phosphorylation (2) Ech A protect cardiac cells from different kinds of cardio toxins including tert-Butyl hydroperoxide (tBHP, organic reactive oxygen species (ROS) inducer), sodium nitroprusside (SNP; anti-hypertension drug), and doxorubicin (anti-cancer drug) (3) Ech A negatively regulates cardiac contractility by inhibiting SERCA2A activity, which leads to a reduction in internal Ca2+ stores (4) Ech A promotes the differentiation of stem cells into cardiac cells through regulation of mitochondrial function (5) Ech A is effective in treating diabetic nephropathy by protecting mitochondrial function. These novel effects of Ech A suggest possible clinical application and drug repositioning of Ech A to various cardiovascular diseases.

シンポジウム3: 【日本毒性病理学会合同シンポジウム】日本毒性病理学会からのトピック:薬物 誘発病変の回復性
  • 竹藤 順子
    セッションID: S3-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    医薬品開発における非臨床安全性評価では,被験物質によって引き起こされる毒性の標的臓器やその用量・曝露の関係を明らかにすることが主目的であるが,認められた変化に回復性があるかどうかは開発判断やリスク評価をする上でも非常に重要である。毒性試験において認められた病変の特徴・範囲,重篤度や影響が認められた臓器の再性能等から科学的な考察で回復性の有無を論じる場合もあるが,回復性の予測が難しい場合は投与期間終了後に休薬期間を含む試験を実施することでその回復性を評価する。回復性評価については完全に回復する期間まで観察する必要はないが,抗体医薬品などは半減期が長いため,回復性を考察するにあたり休薬期間の設定に注意が必要である。

    本発表では毒性試験における一般的な回復性の考え方や休薬群・休薬期間の設定の概要を紹介する。

  • 尾原 涼, 加藤 祐樹, 浅岡 由次
    セッションID: S3-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    副腎は生体に作用する様々なホルモン分泌を担う.また,副腎は内分泌臓器の中で最も頻度高く毒性が検出される臓器である.特にコレステロールを材料に種々のステロイドホルモンを合成・分泌する副腎皮質は,脂溶性の高い化合物やステロイドホルモン代謝に作用を及ぼす化合物によって影響を受けやすく,空胞化や壊死といった病理変化が誘発される.今回我々は,Compound Xのイヌ4週間反復経口投与毒性試験において,投与終了時の副腎の大型化と重量増加を伴うびまん性の皮質空胞化病変 (脂質症) を経験した.この病変は,4週間休薬後に皮質中層域を主体とする投与終了時よりも大型な空胞を有する細胞の集簇病変に移行し,回復性判断に苦慮した (肉眼的な副腎の大型化と重量増加に関しては回復性が認められた). そのため,続く13週間反復経口投与毒性試験では,前述の空胞化病変の明確な回復性を確認するために休薬期間を12週間に設定し,空胞化病変の発生頻度と程度の軽減を確認することができた.毒性変化の回復性を確認することはリスクアセスメント上非常に重要であり,反復投与毒性試験における休薬期間を長く設定すれば化合物の毒性変化の明確な回復性を確認できる確率が高まると考える.一方で,試験期間の長期化によって医薬品開発期間が延長することはメーカーにとって好ましくない.本発表では前述の事例を詳細に紹介するとともに,陽性対照物質であるAminoglutethimideの反復投与により誘発させた副腎皮質の空胞化病変の休薬後の経過についても発表する.また,副腎組織の生理学的ターンオーバーや脂質代謝に関する既知情報も参考に,副腎皮質空胞化病変の回復性判断やそれを可能にする適切な休薬期間の設定についても議論したい.

  • Shotaro YAMANO, Yumi UMEDA
    セッションID: S3-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    Respiratory exposure is one of the most recognized routes of chemical exposure in the workplace. We have been done the hazard assessment of chemicals using a rodent and a whole-body inhalation exposure apparatus. Notably, only a limited number of chemicals exhibit organ-targeted toxicity specific to the respiratory system. In this presentation, chemicals that have been found to induce toxicity in the bronchial and alveolar regions will be selected and their recoverability will be discussed from a histopathological perspective.

    To commence, male and female p53KO1 and rasH22 mice were exposed to chroloetane for 6 h/day, 5 days/week for up to 26 weeks using a whole-body inhalation exposure system. Outcomes revealed a concentration-dependent manifestation of vacuolar degeneration within the bronchial epithelium of mice lung.

    Secondly, F344 rats were exposed of cross-linked water-soluble acrylic acid polymer (CWAAP)3,4 utilizing diverse protocols for systemic inhalation exposure and repeated intratracheal administration. Noteworthy lesions were discerned within the alveolar region in a manner contingent upon dosage and concentration.

    Within this presentation, we aim to delve into the toxicologic pathological alterations induced by these chemicals, encompassing considerations of their recuperative potential.

    [references]

    1.https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/pdf/chukigan/75-00-3_p53ko_MAIN.pdf

    2.https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/pdf/chukigan/75-00-3_rasH2_MAIN.pdf

    3.Takeda T, Yamano S, Goto Y, et al. Dose-response relationship of pulmonary disorders by inhalation exposure to cross-linked water-soluble acrylic acid polymers in F344 rats. Part Fibre Toxicol. 2022 Apr 8;19(1):27. doi: 10.1186/s12989-022-00468-9.

    4.Yamano S, Takeda T, Goto Y, et al. Mechanisms of pulmonary disease in F344 rats after workplace-relevant inhalation exposure to cross-linked water-soluble acrylic acid polymers. Respir Res. 2023 Feb 13;24(1):47. doi: 10.1186/s12931-023-02355-z.

  • 安野 弘修, 山内 啓史, 渡辺 武志
    セッションID: S3-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    Gastric mucosal injuries induced by toxic insults generally show recovery after the withdrawal of the causative agent. One such agent is fusarenon-X (FX), a type B trichothecene mycotoxin and a potent gastric chief cell toxin. There are only a few reports regarding the recovery process after injury to chief cells. Therefore, we proposed an FX-induced mucosal injury to determine chief cell recovery after injury. Crl:CD(SD) rats were treated with a single gavage dose of FX (1.5 mg/kg or 3.0 mg/kg) or vehicle, and the stomach was examined histopathologically for 31 days post- treatment including immunohistochemical staining for gastric and pancreatic differential markers. After 48 hours post-treatment, a single cell necrosis and a decreased number of chief cells was noted. However, the single cell necrosis and decreased number of chief cells began to recover after day 2 and day 10, respectively. Eosinophilic changes in chief cells, which was positive for trypsinogen, suggested incomplete pancreatic acinar differentiation, was observed after day 2 and disappeared at the end of study. Doublecortin and calcium/calmodulin-dependent kinase-like-1 positive gastric progenitor cells and Trefoil factor 2 -positive mucus neck cells were ectopically observed at the base of the gastric glands within 10 days and within 3 days post-treatment, respectively. Additionally, pancreatic acinar metaplasia, which was positive for both trypsinogen and amylase, was observed 5 days post-treatment in the higher dose group. All histopathological findings described above showed the complete or tendency of recovery 31 days post- treatment. In conclusion, FX-induced gastric mucosal damage composed of chief cells injuries followed by promoted ectopic reproduction of gastric progenitor cells and abnormal differentiation of chief cells during its recovery process.

  • 佐山 絢子, 今岡 尚子, 土屋 由美
    セッションID: S3-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    抗がん剤の非臨床毒性試験は、非がん領域の医薬品と同様に、標的器官、曝露反応関係、及び回復性といったプロファイルを明らかにすることを目的として実施される。しかしながら、非がん領域の薬剤とは異なり、非臨床薬効量やヒトの予測薬効量と毒性用量との全身曝露マージンが無い、あるいはネガティブマージンであることは決して珍しくない。それは即ち、その毒性の回復性が、臨床開発及びリスク評価の観点からより重要になることを意味する。

    病理組織学的検査において回復性の有無を判断する際には、まず投与期間終了時にみられた病変の程度や病期を正しく理解し、適切な用語や組織学的グレードを用いて表現することが重要である。その上で回復期間終了時に観察された変化の特性、すなわち投与期間終了以降に速やかに回復したのか、回復期の途中か、あるいはまったく回復していないかを見極めていく。仮に回復途中の病変と判断された場合、細胞のターンオーバーを考慮して完全回復に至るまでの日数を推測することもあり、一連の思考プロセスには病理学的な知識のみならず、組織学や生理学の知識も必要となる。

    本シンポジウムでは、特に低分子抗がん剤に着目し、病変が誘発されることの多い消化管、リンパ造血器、精巣といった臓器に認められる病変、及びその回復性について、病理組織像を中心に紹介する。

シンポジウム4: 生体金属部会シンポジウム: 〜金属による免疫毒性〜
  • 西村 泰光
    セッションID: S4-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    チタン酸化物はセラミックスや複合酸化物等の原料や光触媒材料、或いは食品添加物を含め幅広く利用されている。しかし、近年そのナノ粒子について従来の知見とは異なる毒性が明らかとなり健康影響は危惧されるところにある。チタン酸ナノシート(TiNS)は1nm程度の厚みと平らな結晶構造を持つ2Dマテリアルであり、緻密で平滑性の高い膜を形成するため、紫外線遮断バリア膜、半導体材料、耐食膜、触媒等としての産業利用が見込まれ研究開発が進められている。TiNSは二酸化チタン(TiO2)粒子と同様にチタンと酸素から構成されるが、特異なレピドクロサイト型結晶構造を有し、表面積はTiO2ナノ粒子と比べても非常に大きく、異なる毒性影響が危惧された。そこで、我々は細胞培養実験によりTiNSの毒性影響の解析を進めた。TiNSはヒト単球に特徴的な空胞形成を伴うカスパーゼ依存性アポトーシスを誘導し、空胞内部にはTiNSが確認された。TiNSはオートファジー関連遺伝子の発現増加を誘導したが、bafilomycin A1添加の実験結果よりリソソーム機能亢進を介した毒性機序が示唆された。近年、リソソーム由来Ca2+シグナルの意義が指摘されている。そこで、リソソームCa2+放出チャンネルtransient receptor potential mucolipin(TRPML)に注目し、種々の解析を進めた結果、TiNS曝露後の単球においてTiNSの取り込みに起因する細胞内Ca2+濃度およびv-ATPase, TRPML1 mRNAの発現増加が確認された。また、Ca2+がTiNS表面に結合することも確認された。さらに、TRPML作動薬でリソソーム内Ca2+の放出に働くML-SA1はTiNS曝露時にのみ単球の細胞死を増悪させた。細胞内Ca2+キレート剤 BAPTA-AMはリソソーム遺伝子mRNA増加を抑制した。また、既知のlysosomal cell deathはカテプシン(CTS)依存性であるが、CTS阻害剤はTiNS曝露による細胞死を増悪させた。TRPML1チャンネルの増加によりリソソーム由来Ca2+シグナルが亢進し、これにより上述遺伝子の発現が誘導され再びCa2+シグナルが増幅するpositive feedback loopに陥り、リソソーム増加が加速度的に進行し、著しい空胞形成に続くアポトーシスに至ると考えられる。特異な結晶構造と立体的特徴に起因するTiNSの毒性影響は、金属ナノマテリアルによる免疫毒性の新たな作用機序を示す。

  • 黒田 悦史
    セッションID: S4-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    大気中の汚染微粒子の吸入は、肺の慢性炎症であるアレルギー疾患発症の要因の一つであると考えられている。このような微粒子は免疫活性化物質「アジュバント」として機能することが知られており、吸入により肺の深部に到達し、気道や肺の免疫細胞を活性化させることによりアレルギー性炎症を引き起こすと考えられている。しかしながら、無機の微粒子がどのような機序で免疫細胞を活性化させるのか?そのアジュバント作用の詳細なメカニズムについては十分には明らかにされていない。吸入により気道や肺深部に沈着した微粒子は肺胞マクロファージなどの食細胞に貪食され肺から排出されると考えられている。そこで我々は肺胞マクロファージの微粒子応答に注目し研究を進めている。

    本研究ではアレルギー性炎症を誘導する炎症性微粒子として主にアルミニウム塩(アラム)やシリカを用いて解析を進めている。炎症性微粒子にて肺胞マクロファージを刺激することで炎症性サイトカインであるインターロイキン-1α(IL-1α)や炎症性脂質メディエーターの誘導が認められた。肺胞マクロファージからのIL-1αの放出は微粒子によって誘導された細胞死によるものであり、さらに放出されたIL-1αは、in vivoにおいてアレルギー性炎症を誘発するイムノグロブリンE(IgE)の誘導に関与していた。しかしながら同じアルミニウムでも酸化アルミニウム(Al2O3)の刺激ではIL-1αや脂質メディエーターの放出は認められず、細胞死やIgE誘導も弱かった。これらの結果は、微粒子の化学的特性が肺胞マクロファージの活性化や細胞死、ひいては獲得免疫の誘導にも影響を及ぼしていることを示唆している本シンポジウムでは微粒子の化学的特性が肺胞マクロファージ活性化に及ぼす影響について紹介したい

  • 中山 勝文
    セッションID: S4-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    カーボンナノチューブ(CNT)は金属的にも半導体的にもなり得るナノ物質であり、その優れた物性によりエネルギー、バイオ、ITといった多岐に渡る分野での応用が期待されている。その一方で、一部の多層CNT(MWCNT)はアスベスト様の毒性を示すことが多くの動物実験で認められている。そのため今後は、より安全なCNT開発に向けてその毒性発現分子機構の解明とヒトへの外挿が求められている。CNTを含む多くのナノマテリアルは生体内でマクロファージなどの貪食細胞に取り込まれ、その細胞ストレス応答(NLRP3インフラマソームの活性化や細胞死など)が毒性発現に関与すると考えられている。しかしながらその詳細について多くのことが判っていない。私たちは最近CNTを認識する免疫受容体としてマウスT cell immunoglobulin mucin4 (Tim4)とヒトsialic acid immunoglobulin-like binding lectin (Siglec)-14を同定し、それら受容体を介して炎症応答が引き起こされることを明らかにした(Omori et al., Cell Rep., 2021; Yamaguchi et al., Nat. Nanotechnol., 2023)。本シンポジウムでは、私たちの最近の研究成果を中心にCNTの炎症誘導分子機構について紹介したい。

  • 角 大悟
    セッションID: S4-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    バングラデシュやカンボジアなどアジア諸地域を代表として、全世界において飲料水への高濃度のヒ素化合物の混入による慢性ヒ素中毒が深刻な問題となっている。ヒ素化合物への慢性的な曝露は甚大な健康影響を与えるが、その中でも発がんは深刻であり、WHOの調査によると、バングラデシュでは、数千万人の住民が井戸水を介してヒ素に曝露されており、年間200,000〜270,000のヒ素曝露患者が、がんが原因で死亡している。

    ヒ素曝露による発がんの機序を明らかにすることを目的とした研究内容は多く報告されているが、その詳細な機序はこれまで誰も達成できていない。その根拠として、ヒ素化合物はヒトに対する発がんが認められているCarcinogenであるものの、動物モデルでそれを再現することができないことが挙げられる。これらの報告や事象から、ヒ素化合物は、「非遺伝性発がん物質」として発がんを誘発していると考える。

    一方で、当研究室では、ヒ素化合物による発がん機序において「免疫のシステムが障害を受けているのではないか」と考え検討を進めている。その過程で自然免疫においてがん細胞の殺傷に関わるナチュラルキラー(NK)細胞の機能がヒ素化合物によって減弱していることを見出した。本シンポジウムでは、NK細胞が持つがん細胞への殺傷機能がヒ素化合物により障害を受ける機序について紹介する。

シンポジウム5: 医薬品毒性機序研究部会シンポジウム:毒性発現機序(AOP)の理解とその毒 性評価への応用
  • 竹村 晃典, 伊藤 晃成
    セッションID: S5-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    薬物性肝障害は臨床試験の中止や市販後の撤退の主たる原因となるため、適切な評価を実施し、薬効だけでなく安全性にも優れた化合物を選定することが求められる。その評価項目としてミトコンドリア毒性があり、これまでにいくつかその毒性を検出すつ手法が確立されてきた。これらはスループットに優れるなどの点から汎用されているが、それ以外の未検討の評価項目の重要性を否定するものではない。その中で我々は重篤な肝障害を起こす薬物に共通するミトコンドリア膜透過性遷移(MPT)に着目して検討を進めてきた。これまでは肝細胞に着目した研究にとどまっていたが、ミトコンドリアはほとんどの細胞で有しており、障害を増悪させる炎症細胞でのMPTの影響を詳細に評価されていない。その点について、骨髄由来細胞のMPTの構成因子を欠損させたマウスにアセトアミノフェンを投与したところ肝毒性発症において血小板の関与を示唆する結果が得られた。また、これまでMPTの評価が積極的に行われない要因として、肝障害に及ぼす寄与が不明だけでなく評価時には実験動物より単離した臓器由来のミトコンドリアが必要であり、近年の動物実験3Rの原則から代替手法の構築が望ましい。この点について、血小板にてMPTが起こると通常とは異なる活性化を示すため、血小板の活性化を指標とすることで従来のMPT評価を代替手法に関する検討もすすめ、従来手法と比較してある一定の相関を認めた。また肝障害予測の難しさには種差が挙げられる。種差にはヒトと動物間だけでなく、実験動物間にても化合物投与時の反応性が異なるため、実験目的に応じて適切な動物種の選択は重要である。この点についてラット・マウスどちらでもMPT誘導する能力があるリポ多糖を用いて動物間種差についても検討してきた。このような点も踏まえた発表を通して皆様とご議論を深めたいと考えている。

  • 大久保 佑亮
    セッションID: S5-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    医薬品開発において、胚・胎児影響を調べる発生毒性試験は、臨床試験の実施が困難であるため、動物を用いた非臨床試験が非常に重要な指標となる。一方で、発生毒性は種差が大きいことも知られており、サリドマイドのようにげっ歯類では奇形を生じないがヒトでは深刻な奇形を生じる医薬品も存在する。そのため、現行の試験法では複数種多数の動物を用いるなど、人的・時間的・金銭的に多大な労力を払ってその安全性を評価せざるを得ない。加えて、核酸医薬品のような新規モダリティ医薬品はヒトに対する特異性が高く、現行の動物試験だけではその安全性を評価することが難しい。したがって、ヒト発生への影響の有無を高精度に予測可能なスループット性の高いin vitro発生毒性試験法が求められている。

    我々は胚・胎児発生がシグナル伝達相互作用により制御されることに着目し、ヒトiPS細胞を用い、化学物質のシグナル伝達のかく乱作用を基にした発生毒性評価法(DynaLux/c)を開発してきた。これまでに発生毒性物質のFGF-SRFシグナルに対するかく乱作用の動的変化を24時間の生細胞ルシフェレースアッセイにより解析し、高い正確性と網羅性を有することを報告してきた(Kanno et al., iScience, 2022)。

    現在、我々は、DynaLux/cに培養細胞多検体リアルタイム発光計測システム(KronosHT)を導入し、48時間以上の連続したシグナルかく乱作用の動的変化の検出に成功した。KronosHTの導入により、試験は1週間で終了し、詳細なシグナルかく乱作用の検出が可能となった。また、FGF-SRF以外の発生過程を制御するシグナルかく乱として、Wnt-TCF/LEFシグナルのレポーターアッセイ系を構築し、化学物質によるかく乱作用の検出を進めている。最後に、分子機構の解明に関する取り組みに関して、進捗を報告したい。

  • 山田 智也
    セッションID: S5-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    甲状腺ホルモン(TH)は脳発達に必須であり、THをかく乱する化学物質は発達中の脳に対する潜在的リスクとして規制対象となり得る。周産期における化学物質誘発性のTH不足と脳発達異常との定量的関係は未だ完全には解明されていない。一方、化学物質の安全性スクリーニングの効率化と動物実験削減の必要性が強調されている近年、THかく乱に関連する複数のAdverse Outcome Pathways(AOPs)が明らかにされ、当該AOPのMolecular Initiating EventやKey Eventに着目したインビトロ試験が開発中である。規制目的でのインビトロ試験実施時には発達中の脳におけるTHシグナリング機構への定量的影響評価の理解不足が課題と成り得る。AOPの他、胎児期初期における胎盤経由の母動物からのTH供給量、胎児期後期以降の児動物自らのTH合成能や視床下部-下垂体-甲状腺軸を介したTH恒常性維持機構、胎盤や母乳経由の化学物質の暴露量やその体内動態などが交絡要因となり得る。我々は、ラットを用いた短期インビボ試験であるComparative Thyroid Assay(CTA)を用いた証拠の重み付けアプローチに注目し、脳内のTH濃度とTH 低下の器質的インジケータである異所性神経細胞巣を新たな検査項目として追加しつつ、使用動物数を削減した改良型CTAの実現可能性を検証してきた。その結果、改良型CTAは周産期の20~30%程度の脳TH濃度のかく乱を識別できることが判明した。また、改良型CTAはNew Approach Methodologies (NAMs)の適用を目指した周産期の生理的薬物動態モデル構築のためのデータ収集にも有効である可能性がある。このモデルは、発達の重要な段階におけるTHかく乱の定量的理解を深め、NAMs利用による適切なリスク評価に寄与することが期待される。

  • 吉成 浩一
    セッションID: S5-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    化学物質の安全性評価において、動物実験代替法の開発が強く求められているが、毒性の多様性や発現機序の複雑さなどの理由から、反復投与毒性試験や発がん性試験の代替法の開発はほとんど進んでいない。そのような中、類似物質の毒性試験データに基づいて未試験物質の毒性を予測する、リードアクロスと呼ばれる手法に期待が寄せられている。リードアクロスでは、評価対象物質の毒性を、化学構造や生物学的特徴が類似した物質(ソース物質)の毒性情報から類推することから、ソース物質の選択が非常に重要である。私達の研究室では、ラット発がん性試験の代替法開発を最終的なゴールとして、非遺伝毒性発がん性を、化学構造情報と発がん機序関連インビトロ試験結果を利用したリードアクロスにより予測する手法の開発に取り組んでいる。本研究では、食品安全委員会で公開されている農薬評価書のラット2年間発がん性試験結果を収集してデータベース化し、良性又は悪性腫瘍の有無を目的変数としている。手法の概略は以下の通りである:①市販ソフトウェアで分子記述子を計算し、正規化した分子記述子を利用して物質間のユークリッド距離を計算する。②各被験物質から一定範囲の距離にある物質をソース物質候補(第一次ソース物質)として選択する。③被験物質と第一次ソース物質について発がん性と関連するインビトロ実験を実施する。④被験物質と実験結果が一致する物質のみを最終ソース物質として選択する。⑤最終ソース物質でリードアクロスを行い、陽性判定基準をデータセット全体の各腫瘍の発生率として発がん性を予測する。農薬は様々な臓器に腫瘍を引き起こしうるが、私達は、上皮細胞傷害と関連する鼻腔がん、胃がん、膀胱がん、核内受容体活性化や酵素誘導が関与する肝がん、甲状腺がんなどを中心に研究を進めている。本セッションでは本研究に関する最近の成果を紹介する。

シンポジウム6: 【日本中毒学会合同シンポジウム】トキシドロームと分子毒性学的新知見
  • 勝俣 良紀, 市原 元気, 杉浦 悠毅, 松岡 悠太, 佐野 元昭
    セッションID: S6-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    心筋梗塞は、心臓の筋肉への血流が遮断される疾患で、治療後も心筋の障害は進行しやすいことが知られている。疾病の進行は極めて早いため、これまでは病態が進行した後で行われる研究が主なものでした。今回、我々は生きた疾患モデルマウスを用いて、心筋の虚血再灌流障害が段階的に進む過程を、新技術「代謝分子を用いたモニタリング手法(透析膜手法)」で詳細に観察した。この新手法の活用により、心筋梗塞が引き起こす有害な活性酸素の除去機能が徐々に低下するメカニズムを特定した。さらに、活性酸素の除去を強化する代謝経路に介入することで、虚血再灌流障害後の心筋のダメージを減少させることができることが観察された。

    今回の研究では、細胞膜の「活性酸素による脂質の酸化」に焦点を当てた。細胞膜の脂質が過剰に酸化されると、膜としての構造を保てなくなり細胞全体が死に至ってしまうことも知られている(フェロトーシス)。心臓の虚血再灌流障害では、酸化脂質の蓄積およびフェロトーシスが虚血再灌流後の比較的遅いタイミング(再灌流後6時間以降)で始まり、その原因が虚血・再灌流時にグルタチオンという強力な還元物質が、特殊なトランスポーター(主にMRP1:multidrug resistance protein 1)を介して細胞の外に漏れ出てしまうことを解明した。本研究では、心筋細胞内での活性酸素および酸化脂質の増加を制御し、フェロトーシスという細胞死の進行を抑える新しい治療ターゲットを特定することができた。この新たな治療法は、心筋梗塞患者の生命を救い、生活の質の向上や病態からの回復をサポートする重要な選択肢として期待される。

  • 北嶋 聡, 髙橋 祐次, 相﨑 健一, 菅野 純
    セッションID: S6-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    最近、フグ毒として知られるテトロドトキシン(TTX)とその類似物質が、ヨーロッパ海域の腹足類や二枚貝から検出されたため、欧州食品安全機関(EFSA)は、海産二枚貝におけるTTXのリスク評価を実施した。雌性Swissマウスを用いた急性経口試験の結果に基づき、最も感度の高いエンドポイントとして「無気力(apathy)」が選択され、その無影響量(NOAEL)である25 μg/kg体重に基づいて、TTXおよびその類縁物質の急性参照用量(ARfD)として0.25 μg/kg体重が導き出された。従ってマウスにおいては、TTXの経口投与により、人での中毒症状としてあまり知られていない「無気力」という中枢影響が、最も感度良く誘発されることが示唆された。

     TTX急性中毒の分子メカニズムの探索を目的として、分子メカニズムに基づく毒性予測に向けて開発されたPercellomeトキシコゲノミクスを適用した。24時間無作用量を高用量とし、12週齢の雄性C57BL/6Jマウスに、TTX(0、30、100及び300 μg/kg体重)を単回経口投与した際(各4用量・4時点)の肝及び海馬のmRNAを採取し、GeneChip MOE430v2 (affy-metrix社)を用い、約45,000プローブセット(ps)の遺伝子発現の絶対量をPercellome法により得て網羅的解析をおこなった。比較的多くの遺伝子の発現変動が認められ([肝]: 750 (増加)/27 (減少) ps、[海馬]: 121 (増加)/0 (減少) ps)、解析の結果、肝と海馬ともにストレス応答やサイトカインに係るシグナルネットワークが抽出された。その他、肝では糖新生作用が予測されたが、興味深いことに、海馬では神経伝達に絡むシグナル分子の発現変動は目立たなかった。多臓器連関について解析中であり、以て、TTX急性中毒の分子メカニズムについて包括的に議論したい。 

  • 小林 憲太郎
    セッションID: S6-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    中毒患者の診療を行う際に、その患者が何かの「中毒」であると判明している場合とそうでない場合がある。よって常日頃より「中毒による症状」の可能性を考えて患者診療を行うことが大事である。特に「原因不明の〇〇」は中毒を疑うキーワードとなる。また何かの中毒であることはわかっていても「何の」中毒であるかが分からない状況にも遭遇する。こういった場合、どのような物質の中毒であるか中毒物質を想定して診療を行うがその時に用いるのがトキシドローム(toxidrome)である。トキシドロームとはtoxic syndromeからつくられた造語であり1970年ごろから使われ始めた。症状や徴候から中毒原因物質を分類して緊急対処を行うための概念として用いられており、分類の仕方は様々であるがACLS (Advanced Cardiovascular Life Support)におけるEP(experienced provider)コースにおいては交感神経作動性、コリン作動性、抗コリン性、オピオイド、鎮静/催眠性の5つの分類がされていて臨床現場においては一般的な分類である。一方、有毒ガスや化学物質への対応を行う教育コースであるAHLS(Advanced Hazmat Life Support)においては刺激性ガス、窒息性、コリン作動性、腐食性物質、ハロゲン化炭化水素の5分類がなされており、状況に応じて適宜症状、徴候を捉えて分類を行うことが求められる。いずれにしてもトキシドロームによる分類の意義としては原因薬毒物が同定されなくても分類されることで必要な緊急治療につなげることができる点である。日本中毒学会監修「急性中毒標準診療ガイド」においてもその点を重要視しておりトキシドロームとそれを補完するための分析を含めた各種臨床検査の解説に1章を割り当て急性中毒診療における標準的な考え方として位置付けている。

  • 早川 桂
    セッションID: S6-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    Global Terrorism Databaseによるとテロリズムの総件数は2010年以降より急増し、世界中では年間10,000件を超える攻撃が発生している。攻撃の種類としては爆発物によるものが圧倒的に多いものの、化学物質によるChemicalテロ(Cテロ)も少なくない。また、もともと戦場用に開発された化学兵器が、都市や紛争地域で一般市民に使用されるようになったことも近年のテロリズムの特徴である。

    化学テロ災害現場では、無数にある中毒起因物質の同定作業は容易でなく、診断までに時間を要することがある。さらに様々な情報が錯綜し、また検体採取の不確実性も同定作業を困難にする要因である。一方、致死性・緊急性の高い化学剤に対しては速やかに治療を開始する必要がある。呼吸筋停止やチアノーゼに対しては支持療法が必要であるし、解毒拮抗薬の投与も考慮される。さらにエイジング(aging)によって神経剤の拮抗薬であるオキシム剤の効果が減弱する時間はサリンで5時間、ソマンで2分間ともいわれている。原因となる薬毒物が判明してから治療を始めるのでは手遅れになることがあり、化学テロの傷病者の初期診療においては、その薬毒物を推定しながら、治療も開始するというアプローチが必要となる。臨床で用いられる5つのトキシドローム以外にも、化学テロに対しては異なったトキドロームが考案されている。

    本セッションにおいてはテロ攻撃に適した特性、すなわち揮発性が高く、無力化または致死効果の発現が早い特性を持つ化学薬剤(神経剤、窒息剤、およびオピオイドなど)のトキシドロームについて、およびCテロ対策として東京オリンピック・パラリンピック競技大会2020等で実際に準備されたモデルについて概説する。

シンポジウム7: 環境要因によるエピジェネティック制御
  • 眞貝 洋一
    セッションID: S7-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    The eukaryotic genome is divided into two domains: euchromatin and heterochromatin. Furthermore, heterochromatin is broadly classified into two types, constitutive and facultative heterochromatin, which are epigenetically regulated by the H3K9 methylation and H3K27 methylation (Polycomb repressive complex:PRC) regulatory systems, respectively and separately. Interestingly, these two heterochromatin states are maintained by the other regulatory system to some extent from each other if the respective responsible epigenomic machinery fails to work.

    Recently, various epigenome changes and plasticity have been observed in response to environmental stimuli during developmental stages and long-term life activities including aging, suggesting that these epigenome changes are associated with pathological or physiological biological dysfunction.

    In this context, I would like to discuss with participants how the heterochromatin-regulated plasticity we are finding contributes to human health and disease.

  • 服部 奈緒子, リュウ ユユ, 安川 佳美, 牛島 俊和
    セッションID: S7-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    エピゲノムは細胞運命を決定する重要な仕組みである。一方で、環境要因への曝露により一旦変化が生じると、細胞分裂後も引き継がれるために、がん、精神・神経疾患、2型糖尿病など多くの疾患に関与する。がんに関しては、エピゲノム変化が末梢組織の正常上皮細胞に蓄積して「発がんの素地」を形成することが知られている。我々はこれまでに、エピゲノムのひとつであるDNAメチル化の変化量が将来の発がんリスクと相関すること [Gut, 64:388, 2015; Gut, 66:1751, 2017]、DNAメチル化変化の誘発には慢性炎症が重要であることを明らかにしてきた [J Clin Invest, 130:5370, 2020]。最近、組織微小環境を構成する線維芽細胞や血管内皮細胞においても、慢性炎症・加齢・低酸素などの内的要因によってDNAメチル化変化とヒストンH3K27アセチル化上昇を見出した。また、胃の正常線維芽細胞における一部のH3K27アセチル化上昇が「発がんの素地」形成に関与し、がん細胞の性質を決定していた。これらのことから、内的要因への生体応答が、エピゲノム変化を誘発していることが明らかとなった。そこで現在は、外的要因として慢性的な精神的ストレスに着目し、胃組織のエピゲノム変化と発がんへの影響を解析している。本シンポジウムでは、内的および外的要因によるエピゲノム変化が如何に発がんに影響するかについて紹介する。

  • 吉田 圭介
    セッションID: S7-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    胎児期の分化発生機構は厳密に制御されているため、母親の栄養状態や化学物質暴露といった体内外の環境ストレスの影響を胎児は受けやすい。実験動物を用いた実験からは、母獣が農業殺菌剤(ビンクロゾリンなど)に暴露されると、数世代にわたって、子孫の表現型に影響することが知られている。一方で、最近の研究からは、父親の受けた環境ストレスもまた、次世代の表現型に影響することが示されている。例えば、遺伝的背景が一致した同一系統の雄マウスを通常餌または低タンパク質餌で飼育した後に交配させると、低タンパク質餌の子供マウスでは、肝臓におけるコレステロール代謝系遺伝子の発現が上昇する。こうした現象は、DNA配列変化を伴わない遺伝様式が存在することを示しており、精子に含まれる何らかのエピゲノム要素が環境ストレスによって変化し、それが子孫へと継承されたという可能性が考えられる。

    環境ストレスによって誘導される精子エピゲノム変化を詳細に捉えるため、独自に我々は成熟精子の高純度分画法、そして精子ヒストンのマッピング手法を確立した。実際にこの手法を用いて、マウスの低タンパク食や宇宙環境での飼育によって誘導される精子エピゲノム変化を検出し、次世代個体の表現型変化を誘導する分子メカニズムの一端を明らかにしている。本講演では、父親ストレスの遺伝の分子メカニズムについて、我々が最近見出した、ストレス応答性の転写因子ATF7を中心に解説する。

  • 鈴木 武博, 岡村 和幸, 野原 恵子
    セッションID: S7-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    近年多くの研究から、環境因子による将来世代への影響が懸念されている。このような世代間の影響伝搬の分子メカニズムはまだほぼ未解明であるが、父性経由、すなわち精子を介する影響の伝搬は精子のエピゲノムが担うと考えられている。

    我々は、次世代への健康影響が報告されている環境化学物質であるヒ素を対象に、次世代影響メカニズム解析をすすめている。これまでに、オスが成長後に肝腫瘍を発症しやすいC3Hマウスで、妊娠中に無機ヒ素を投与すると、その仔世代F1のオスを介して孫世代F2で肝腫瘍が増加することを見出だした。また、妊娠期ヒ素曝露によって、F1精子は対照群と比較しゲノムワイドなDNA低メチル化状態となり、メチル化が低下したCpGは特にレトロトランスポゾンのLINEとLTRで増加することを明らかにした。レトロトランスポゾンのメチル化低下は有害な転移活性につながり、体細胞では発がんへの関与が報告されていることから、F2での肝腫瘍増加のメカニズムに一部寄与する可能性が考えられる。さらに、F2胚及びF2精子のメチル化を検討した結果、F2胚ではF1精子のメチル化状態が維持されるのに対し、F2精子ではF1精子のメチル化状態がキャンセルされることがわかった。C3Hマウスの妊娠期ヒ素曝露の実験系では、F3世代では肝腫瘍が増加しないことが明らかになっており、F2精子の結果は上記の考察を支持している。

    また、F1生後6日の精巣から単離したA型精原細胞のDNAメチル化状態の検討も開始した。ヒ素群F1のA型精原細胞ではゲノムワイドなDNA低メチル化が観測されたが、F1精子と異なりLINEで低メチル化CpGが増加しなかった。A型精原細胞以降の精子形成過程においてDnmtやTet発現のダイナミックな変化が報告されており、これらがヒ素の影響を受けることでF1精子での低メチル化CpGの増加につながる可能性が示唆された。

  • 河合 智子, 春日 義史, 鹿嶋 晃平, 谷口 公介, 中林 一彦, 秦 健一郎
    セッションID: S7-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    子宮内環境も含む生涯の早期の環境因子が、幼児期あるいは成人期の疾患発症と関連していることを示した疫学的結果が、何百万人を対象とした解析から得られている。そのメカニズムとして環境によるエピゲノム変化の関与が示唆されている。Gluckman博士とHanson博士によって、この概念はDevelopmental Origins of Health and Disease (DOHaD)仮説として提唱され、広く認識されている。DOHaD仮説を証明する研究はヒトではまさにオンゴーイングである。DNAメチル化はエピゲノムの中でも、過去と未来の影響を同時に評価する指標として有用な分子生物学的指標であり、多くの前向きコホート研究で様々な環境要因とDNAメチル化変化との関連が報告されている。我々も、日本人を対象に、妊娠合併症など子宮内環境が児に及ぼす影響についてDNAメチル化変化を指標に解析をおこなってきた。これらの結果を紹介するとともに、早期の環境が後の疾患発症につながるメカニズムについて考察し、本シンポジウムの議論につなげたい。

シンポジウム8: 日韓合同シンポジウム:オルガネラ毒性と代謝疾患
  • HoJeong KWON
    セッションID: S8-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    Navigating the protein targets of drugs (hereafter, targetome) and deciphering the specific mechanisms of action at the molecular level of these interactions are critical steps in the development of drugs to treat human diseases. We have developed target protein identification methods including conventional affinity chromatography using labeled small molecules as well as recent methods using label-free small molecules such as Drug Affinity Responsive Target Stability (DARTS) and Cellular Thermal Shift Assay (CESTA) in combination with LC-MS/MS analysis to identify the targetome of drugs. The direct interaction between drug and the target protein is validated using biophysical, and bioinformatics tools. In addition, the biological relevance of this ‘drug-targetome-phenotype’ interaction is verified by genetic modulation, facilitating structure-based better drug design. In this presentation, our studies on target identification of ‘drug-targetome-phenotype’ interaction for navigating new mechanism of small molecules, target proteins, and their translational impact will be presented by introducing our case studies of protein target identification and validation of small molecules perturbing autophagy.

  • Sang Geon KIM, Jihoon TAK
    セッションID: S8-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    Toxicant-induced liver injury necessitates the identification of targets and therapeutic agents. Gα12 signaling axis has been implicated in cell viability. This study aims to explore the role of the Gα12 signaling axis in endoplasmic reticulum (ER) stress-induced ferroptosis by toxicant, and the effect of NEMO as a cell-survival component in this process. Gα12 overexpression in hepatocytes increased toxicity, promoting lipid peroxidation, inflammation, and ferroptosis. IRE1α-dependent Xbp1 transactivated Gna12, facilitating Gα12 overerexpression. In this event, the level of miR-15a, identified as an ALOX12 inhibitor, was decreased. Thus, Gα12 overexpression by ER stress contributes to hepatocyte ferroptosis through ROCK1-mediated dysregulation of ALOX12. In an effort to find a cell-survival component that acts against ferroptosis in association with Gα12, we next focused on NF-κB essential modulator (NEMO), a protein known as a regulator of inflammation and cell death. Nrf2 transcriptionally induced NEMO. Hepatocyte-specific overexpression of Gα12 inhibited NEMO in mice. Conversely, Gα12 deficiency prevented toxicant from inhibiting NEMO, suggesting post-transcriptional control. Moreover, decrease of Gα12 lowered miR-125a, a novel inhibitor of NEMO. The significance of Gα12 in NEMO-dependent hepatocyte survival was confirmed via ROCK1. These results were validated in human specimens. Together, our results show that Gα12 overexpression by toxicant-induced ER stress causes ferroptosis in the liver through ALOX12, which can be overcome by Nrf2-dependent NEMO induction. Our findings may provide ways to ameliorate toxicant-induced hepatic injury.

  • Jin HAN
    セッションID: S8-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    Type 2 Diabetes Mellitus (T2DM) is characterized by insulin dysfunction, brought about by chronic hyperglycemia. The endoplasmic reticulum (ER) has been implicated in diabetic cardiomyopathy (DCM) progression. This study aimed to determine a novel target for new therapeutic modality to address T2DM-induced cardiomyopathy. Cereblon (CRBN) has been found to function in cardiovascular disease and so, this study further elucidated how CRBN can induce cardioprotection via attenuation of ER stress response in T2DM. 11-week-old C57BL/6 and CRBN knockout mice were fed with high fat diet for 4 weeks and administered with streptozotocin to induce T2DM in vivo after which samples were collected when mice reached 20 weeks of age. Mouse cardiac fibroblasts treated with high glucose and palmitic acid were used to induce ER stress in vitro. Pharmacologic and genetic CRBN knockdown was also done on in vitro T2DM mode using TD-165, a PROTAC-based CRBN degrader, and shCRBN adenovirus, respectively. Western blot and RT-PCR analyses were used to assess ER stress protein and RNA expression under T2DM conditions. Higher CRBN levels were observed in the T2DM model in vivo and in vitro. ER stress proteins were modulated upon knockdown of CRBN, both genetic and pharmacological, suggesting the possible interaction of CRBN with ER stress proteins. Additionally, fibrosis was also alleviated upon knockdown of CRBN. Knockdown of CRBN regulated the quantitative expression of ER stress proteins and RNA indicating that CRBN may be used as a novel target in alleviating ER stress in T2DM.

  • Yuri KATO, Kohei ARIYOSHI, Tsukasa SHIMAUCHI, Akiyuki NISHIMURA, Xinya ...
    セッションID: S8-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    Diabetes is a chronic metabolic disorder that affects nearly 10% of adult people worldwide. It is characterized by high levels of blood glucose, which can lead to a range of complications, such as cardiovascular disease, neuropathy, and retinopathy. Recently, mitochondrial quality control has been highlighted as a potential therapeutic target for treating diabetes and its complications. We previously reported that mitochondrial hyperfission by forming a protein complex between dynamin-related protein (Drp) 1 and filamin A (FLNa), mediates chronic heart failure and cilnidipine, developed as an L/N-type Ca2+ channel blocker, improves heart failure by inhibiting Drp1-FLNa protein complex. Therefore, we investigated whether cilnidipine improves hyperglycemia of various diabetic model mice.

    Cilnidipine treatment improved systemic hyperglycemia and mitochondrial morphological abnormalities in STZ-exposed mice, without lowering blood pressure. In contrast, cilnidipine failed to improve hyperglycemia of ob/ob mice, by suppressing insulin secretion. Therefore, we have identified a Ca2+ channel-insensitive cilnidipine derivative (1,4-DHP) that does not inhibit insulin release. 1,4-DHP improved hyperglycemia and mitochondria morphology abnormality in ob/ob mice fed high-fat diet. These results suggested that maintaining mitochondrial quality by inhibition of Drp1-FLNa becomes a new strategy for diabetes treatment to treat diabetes and diabetic complications.

シンポジウム9: 【KSOT-JSOT 合同シンポジウム】PFAS 問題の動向と最新の知見
  • 久保田 彰, Jae Seung LEE, 松本 健太郎, 田上 瑠美, 野見山 桂, 高橋 真, 石橋 弘志, 江口 哲史, 川合 佑典
    セッションID: S9-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    Per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) are widely used for consumer products. Some of PFAS have been listed as POPs due to their persistent and bioaccumulative natures, as well as toxicity. The present study aimed to evaluate the biological effects of representative PFAS and to understand the possible mode of action using developing zebrafish. Embryos exposed to perfluorooctane sulfonate (PFOS) and perfluorohexane sulfonate (PFHxS) elicited pericardial and yolk-sac edemas and reduction of blood flow in trunk vessels at 96 hours post fertilization in concentration-dependent manner, with greater potency observed in PFOS than in PFHxS. The behavioral assay revealed that embryos exposed to PFOS increased motility without a major effect on swimbladder inflation, indicating hyperactivity. RNA-seq analysis showed that many differentially expressed genes (DEGs) were upregulated by both compounds, whereas a smaller number were the shared downregulated DEGs. Among DEGs are neuronal and behavioral pathways most highlighted in the enrichment analysis, which supports the behavioral disorder. We found that genes important for calcium metabolism, such as pth1a, pth2, and calca, were largely upregulated following exposure to both PFAS. These results, together with existing reports, suggest that behavioral disorders and possibly circulatory failure caused by PFAS exposure might occur through disruption of calcium signaling in developing zebrafish. We are underway to measure other endpoints to see if there is any association with transcriptomic changes caused by PFAS in zebrafish.

  • Shoji F NAKAYAMA
    セッションID: S9-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    PFAS are some of the most prominent man-made chemicals in history due to their unique properties, such as water and oil repellence, chemical and physical resistance and surfactant nature, which cannot be reproduced by non-fluorinated hydrocarbons. PFAS comprise a wide variety of substances with carbon–fluorine (CF2) groups as a common molecular skeleton but exhibit structural differences including different chain lengths, moieties and branches. Due to their long-term and wide-range use, PFAS are found everywhere on the globe, even in environments far from human activities, such as the Arctic and Antarctic. There are increasing numbers of studies about the environmental fate and transport of PFAS, their toxicity to ecosystems, animals and humans and their effects on human society and economics. These studies have revealed the unique properties of PFAS, especially their long-range transport potential, environmental persistency and human health effects. Many alternatives have been introduced to the market with the aim of overcoming the problems associated with PFAS, but some of them have already been recognised as unsafe, i.e., regrettable substitution. In this presentation, the current evidence about PFAS health risks is summaries and discussed

  • Jeong Eun OH
    セッションID: S9-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
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    Perfluoroalkyl substances (PFAS) are synthetic organic compounds that have been produced for over six decades and they are used widely in industries due to their unique physicochemical characteristics like both hydrophobic and hydrophilic properties. Recently, Perfluorooctanoic acid (PFOA), Perfluorooctane sulfonic acid (PFOS), Perfluorohexanesulfonic acid (PFHxS), and their salts are designated as Persistent Organic Pollutants (POPs) under the United Nations Environment Programme (UNEP) Stockholm. In relation to the global regulation of these specific compounds, industries have changed to use of PFAS with lower persistence and bioaccumulation. These PFAS include shorter-chain PFAS like perfluorobutane sulfonic acid (PFBS) and perfluorobutanoic acid (PFBA), as well as Gen-X (hexafluoropropylene oxide dimer acid; HFPO-DA), dodecafluoro-3H-4,8-dioxanonanoate (ADONA), and 6:2 chlorinated polyfluoroalkyl ether sulfonate (F53B). Despite of the effort to reduce PFAS use, PFAS have been ubiquitously detected in water systems due to their wide use and low removal efficiency in water treatment processes. Accordingly, there has been increasing concern about potential human exposure via drinking water consumption. Therefore, this study aimed to evaluate the current PFAS contamination status of Korean environment including human samples. In addition, we estimated the daily intake of these contaminants via various exposure pathways and assessed human exposure to PFAS in South Korea. The detailed results will be presented in conference.

  • Hyung Sik KIM
    セッションID: S9-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    Perfluorinated compounds, perfluorooctanoic acid (PFOA) and perfluorooctane sulfonate (PFOS), are persistent organic pollutants that can cause severe toxicity in mammals. However, the underlying molecular mechanisms are not clearly understood. The aim of our study is to investigate mode of actions for PFOA- or PFOS-induced nephrotoxicity in male rats. PFOA (20 mg/kg b.w.) or PFOS (20 mg/kg b.w.) were administered by oral gavage for consecutive 20 days. Additionally, we compared the apoptotic cell death in normal rat kidney epithelial (NRK52E) cells. Data showed that PFOA and PFOS significantly increased the blood urea nitrogen (BUN) and creatinine levels in serum of rats. PFOA and PFOS significantly increased malondialdehyde (MDA) levels, decreased GSH peroxidase (GSH-Px) activity in kidney tissues. PFOA and PFOS exposure significantly elevated urinary protein biomarkers including pyruvate kinase M2 (PKM2), kidney injury molecules-1 (Kim-1), and selenium-binding protein 1 (SBP1) in urine of rats. Histological analysis revealed epithelial degeneration and necrotic cell death were exhibited in the proximal tubules of the kidney. For further investigation of the potential mechanism of PFOA- or PFOS-induced renal cell apoptosis, the expression of Bcl-2/Bax ratios were reduced in NRK52E cells. PFOA- or PFOS-mediated ROS production was increased in a dose-dependent manner in NRK-52E cells. These data indicated that PFOS-induced nephrotoxicity was closely related with the renal tubular cells apoptosis via the JNK signaling pathway.

シンポジウム10: 多様な酸化・毒物ストレスに対する新たな生体応答システム
  • 三木 裕明, 船戸 洋佑, 橋爪 脩
    セッションID: S10-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    PRLは大腸がんの転移巣など、悪性化したがん組織で特異的に高発現している。私たちはPRLの直接結合分子として、進化的に保存されたマグネシウムイオン排出輸送体CNNMを見つけた。PRLはCNNMの輸送体機能を阻害して、細胞内マグネシウム量を増加させた。CNNM遺伝子欠損マウスや培養系のがん細胞を用いた解析などにより、CNNM機能阻害による細胞内マグネシウムの蓄積が細胞機能を変質させ、がんの悪性化進展を引き起こしていることも見つけた。PRLを高発現している細胞では、マグネシウム量の増加と共にATP量が増加しており、さらにリソソームが細胞膜と融合して内腔に蓄積したプロトンなどを排出するlysosomal exocytosisが活発化していることが明らかとなった。悪性化したがん組織は酸性化していることが知られるが、積極的なプロトン排出により酸性環境の中で活発に増殖できるようになっていた。線虫C. elegansでCNNMを欠損させると寿命が短くなったが、これは腸細胞の中でマグネシウムやATPの増加に伴って活性酸素が増加していることが原因だった。このような活性酸素産生は哺乳動物細胞でも同様に起こっており、lysosomal exocytosisにも重要であることをを明らかにした。本シンポジウムでは、PRL/CNNMに関する研究から明らかになった細胞内マグネシウム調節と活性酸素産生、またがん悪性化進展における役割などについて紹介したい。

  • 有澤 琴子, 外山 喬士, 斎藤 芳郎
    セッションID: S10-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    フェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂質の蓄積に伴い引き起こされるプログラム細胞死であり、近年様々な疾患との関連が報告されている。一方、生体には酸化ストレスに対する防御機構である抗酸化システムが備わっている。抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)やチオレドキシンレダクターゼは活性中心にセレノシステイン(システインの硫黄がセレンに置換したアミノ酸)を持ち、特にGPx4は過酸化リン脂質の還元能を持つことから本酵素の発現低下あるいは活性の抑制はフェロトーシス誘導に繋がる。

    これらのセレン含有タンパク質の合成に必要なセレン供給において重要な役割を担うセレノプロテインP(Selenoprotein P, SeP)は分子内にセレノシステインを10残基保持し、主に肝臓で産生されて血中に分泌され、全身へセレンを輸送する。我々は最近、SeP発現による細胞内セレン恒常性制御がGPx4発現を介して、フェロトーシス感受性に影響することを見出した。興味深いことに、SePの主要な産生臓器である肝臓のがん細胞では、SeP分泌の抑制が細胞内セレンとGPx4の発現増加をもたらし、フェロトーシスに対しては保護的に働いた一方で、グリオブラストーマ細胞株ではSeP発現抑制により細胞内GPx4が減少しフェロトーシス感受性を示した。すなわち、SeP発現は他臓器へのセレン運搬に加え、オートクライン/パラクラインで取り込まれることで組織内のセレン循環においても重要な意義を持つ。

    本発表では、SePによるセレン維持・運搬・循環システムについて概説し、SePを介した細胞内抗酸化能制御とフェロトーシス耐性との連関を示す。さらに、セレン恒常性破綻によるがんの進展・悪性化について、患者組織の免疫組織化学やin silico解析結果を交えて紹介し、SeP発現を焦点にあてたがん治療戦略を議論する。

  • 松沢 厚
    セッションID: S10-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

     プログラム細胞死は、回復不能な傷害を受けた細胞を体内から除去するための重要なシステムであり、シグナル伝達分子による厳密な制御を必要とする。最近、多様なストレスがその状況に応じてアポトーシス、ネクロプトーシス、ピロトーシス、フェロトーシス、パータナトスなどの様々な形態のプログラム細胞死を誘発することが明らかになってきた。 特に「パータナトス」は、酸化ストレスなどによる細胞傷害時に働くストレス応答シグナル分子PARP-1(poly (ADP-ribose) polymerase-1)の活性化に依存する新しいタイプのプログラム細胞死として見出され、神経変性疾患や癌などの様々な疾患との関連で注目を集めている。しかし、パータナトスの詳細な誘導・制御機構については良く分かっていない。我々は、パータナトスの誘導が、多機能分子p62を介したALIS(aggresome-like induced structures)の形成やその流動性(固さ)に依存していることを見出した。ALISはLLPS(liquid-liquid phase separation; 液−液相分離)によって形成される液滴様の構造体であり、シグナル伝達のhubとして機能する。p62は、細胞傷害の指標としてのユビキチン化タンパク質を認識し、また分子内システイン残基の酸化修飾を介して酸化ストレスなどの多様なストレスに対するセンサー分子として機能することも判明した。さらに我々は、PARP-1によるポリADPリボシル化やp62のリン酸化が、ALISの形成とパータナトスの誘導を促進することも明らかにしており、本シンポジウムでは、ユビキチン化やADPリボシル化など幾つかの翻訳後修飾のバランスによるALIS形成とパータナトス誘導の制御メカニズムと、パータナトスと多様な疾患との関係について議論したい。

  • 今井 浩孝
    セッションID: S10-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    近年、エラスチンやRSL3に代表される細胞内グルタチオン低下やGPx4活性低下を引き起こす抗がん剤による、二価鉄を介した脂質酸化依存的細胞死フェロトーシスが注目され、その制御因子が次々に明らかにされている。一方、我々はGPx4ゲノム遺伝子をTam添加により破壊した場合には、鉄を介さない脂質酸化を介したゆっくりとした細胞死リポキシトーシスがおきること、その実行因子として、網羅的shRNAのスクリーニングから脂質酸化に関与するLipo-1、脂質酸化の下流で機能するLipo-2-6遺伝子およびリポキシトーシス特異的阻害剤を見出している。これらのLipo遺伝子のノックダウン細胞は、リポキシトーシスは抑制できるがフェロトーシスは抑制できない。そこで、今回フェロトーシスと同様に、リポキシトーシスを誘導できる毒性化合物のスクリーニングをおこなった。Lipoノックダウン細胞で細胞死が抑制され、WT細胞で細胞死を誘導できるリポキシトーシス誘導剤を大村記念天然物ライブラリーを用いてスクリーニングした。さらに、リポキシトーシス阻害剤で抑制できる化合物を選択したところ、6化合物を得た。これらの化合物による細胞死はビタミンE誘導体Troloxで抑制されたことから、脂質酸化を介した細胞死を誘導していると考えられた。そこで脂質ラジカルを検出できるNBD-PENを用いて、脂質酸化について検討した。その結果、リポキシトーシス誘導剤2D3による脂質酸化は鉄キレーターでは抑制できず、Troloxでは抑制できた。また2D3による脂質酸化は、リポキシトーシス実行因子Lipo-1のノックダウンにより抑制され、細胞死も抑制されることを明らかにした。このようにリポキシトーシス誘導剤2D3は、Lipo-1による脂質酸化を介した鉄非依存性細胞死で、フェロトーシスとは異なる新規細胞死であることを明らかにした。

シンポジウム11: 免疫毒性学から観たワクチン学
  • 福島 若葉
    セッションID: S11-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    ワクチン接種後の副反応に関する話題は、ここ数年間で一般の方々にとっても非常に身近なものになった。きっかけはもちろんmRNA新型コロナワクチンの国内承認である。承認前の臨床試験結果と同様に、接種開始後の市販後調査でも発熱や倦怠感の頻度が高いと示されたことが、かつてないスピードでの接種事業推進や高い接種率と共に連日報道された。従来モダリティのワクチンと比べると副反応発現頻度が高いことも、ワクチン有効率が高いこととのバランスから当初は受け入れられていた。しかし、有効率は時間とともに低下することが次第に明らかになり、「接種しても罹る」ことが問題視され、接種後の重篤な有害事象などもクローズアップされた結果、ワクチンに対する懐疑論が生まれた。これらの現象は、新型コロナワクチンに対する当初の期待の高さの反動としてはある程度避けられなかったものの、情報があふれる中で、例えば「副反応と有害事象の違い」「ワクチンを接種した後に有害事象が起こったという事実からどこまでのことが言えるか」など、ワクチン学あるいは疫学の視点からの基本的な考え方が共有されていなかったために混乱が生じた感は否めなかった。

    本演題では、本セッションのテーマである「免疫毒性学から観たワクチン学」を議論するベースとなる、ワクチン接種後の副反応・有害事象に関する疫学研究の現状や課題について、自身が携わってきた研究事例も交えながら紹介する。

  • 吉岡 靖雄
    セッションID: S11-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/29
    会議録・要旨集 フリー

    メッセンジャーRNA(mRNA)を内包した脂質ナノ粒子(LNP)によるワクチン(mRNA-LNPワクチン)は、ワクチン研究の歴史を塗り替え、新たなワクチンモダリティーとしての地位を確立しつつある。一方で現状のmRNA-LNPワクチンは、強力にワクチン効果を誘導するものの、炎症性サイトカインの産生等に起因する発熱・投与局所の腫れ・倦怠感などの副反応が高頻度で観察され、ワクチン忌避の主な要因となっている。そのため、有事のみならず平時にも適用可能なモダリティとして進化させるためには、ワクチン効果は維持しつつ、起炎性に起因する副反応を低減することが不可欠となっている。本課題の克服に向けては、副反応を低減し得るmRNA-LNPワクチンの探索と共に、副反応の誘導機序の解明が必要といえる。本講演では、mRNA-LNPワクチンの副反応誘導機序に関する我々の知見と、開発推進している副反応低減型mRNA-LNPワクチンについて紹介させて頂き、多方面からのご意見を頂戴したい。

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