抄録
【背景・目的】エステルアミド型カチオン界面活性剤(EA)は,家庭用柔軟仕上げ剤に配合されており,生活雑排水として環境中に排出される。すでに,OECDテストガイドラインに基づいた評価にて,生分解性が良好であることを明らかにしているが,本物質の正確な環境暴露評価を実施するためには各種の環境媒体中における挙動や存在実態を明らかにする必要がある。我々は,下水処理施設を再現したモデル生分解性試験や実際の処理施設のモニタリングを実施しEAの挙動を明らかにするとともに,都市河川の環境モニタリングを実施することにより,河川におけるEAの存在実態を明らかにした。
【実験方法】下水処理施設内の挙動を明らかにするために,好気反応槽を再現したモデル生分解性試験(OECD TG314B)を用いて検討した。下水処理施設の除去性は,一般的な都市下水処理場と一般家庭に設置された合併浄化槽を対象に分析を実施した。また,河川モニタリングは,代表的な都市河川(7ヶ所)を対象として,年4回(3, 6, 9, 12月)実施した。分析は内標準物質によるサロゲート法を用い,LC-MS/MSによる分析を行った。
【結果及び考察】生分解シミュレーション試験では,EAの水層中濃度が定量下限以下となり,99.7%の高い除去性を示した。また,汚泥に吸着したEAも経時的に減少した。本試験で得られた除去性は都市下水処理場および家庭用合併浄化槽の除去性(99.7~99.9%)とも良く一致することから,EAは一般的な下水処理施設において十分に分解除去されることが示された。モニタリングによる河川水のEA濃度は,0.03~0.59μg/Lで変動し,明瞭な季節変動を示した(夏季:低,冬季:高)。夏季における河川水量の増加と水温上昇に伴う微生物分解の促進が河川中のEA濃度の低下に寄与したと考えられた。