抄録
【目的】2,3,7,8-四塩素化ジベンゾ-p-ダイオキシン(TCDD)が有する毒性は多種多様であり,発症に至るまでの分子メカニズムの多くは未解明である。近年,TCDDがcPLA2αを活性化する作用が報告された。本研究では,TCDDの多種多様な毒性の発現にcPLA2αがどのように関与するのか,cPLA2αノックアウトマウスを使用して検討した。
【方法】実験1) 口蓋裂・胎仔期水腎症についての検討: cPLA2α(+/-)の雌雄マウスを交配し,GD12.5の妊娠母マウスに40 μg/kg体重のTCDDを単回経口投与した。GD18.5で母体から胎仔を摘出し,胎仔の腎臓・上顎を採取した。実験2) 肝障害,肝肥大,胸腺萎縮についての検討: cPLA2α(+/+)もしくはcPLA2α(-/-)の3カ月齢の雄に50 μg/kg体重のTCDDを腹腔内投与し,8日後に肝臓および胸腺を採取した。この間,隔日で尾採血を行い,経時的に血中ALTを測定した。なお,cPLA2αノックアウトマウスは東京大学・清水孝雄先生からご供与いただいた。
【結果・考察】実験1) TCDD曝露による口蓋裂および胎仔期水腎症の発症率は,遺伝子型の違いによる差異は無かったものの,胎仔期水腎症の重症度はcPLA2α(-/-)マウスで有意に低かった。また,雄のcPLA2α(-/-)マウスで,TCDD曝露群の胎仔生存率が低下していた。実験2) TCDD曝露による血中ALT,肝臓重量の増加,および胸腺重量の減少は遺伝子型による差異は見られなかった。以上の結果より,cPLA2αはTCDDによる胎仔期水腎症の増悪に関与すること,他方,同遺伝子がTCDDによる胎仔期致死の抑制に関与していることが明らかになった。また,TCDD毒性のうち,肝毒性や胸腺萎縮には関与しないことが明らかとなった。