抄録
【目的】ナノマテリアル単独での毒性は徐々に明らかになりつつあるが,他の化学物質との相互作用は不明である。そこで,共存する金属塩の細胞毒性に及ぼす二酸化ケイ素(SiO2)及び二酸化チタン(TiO2)ナノ粒子の影響を調査した。
【実験方法】金属塩として,塩化アルミニウム(AlCl3),塩化クロム(III)(CrCl3),塩化銅(I)(CuCl),塩化銅(II)(CuCl2),塩化ニッケル(II)(NiCl2),塩化鉄(II)(FeCl2),塩化鉄(III)(FeCl3)及び塩化亜鉛(ZnCl2)を使用した。ナノ粒子の粒度分布及びゼータ電位は,動的光散乱光度計により測定した。ナノ粒子非共存下及び共存下における金属塩の細胞毒性は,チャイニーズハムスターV79肺線維芽細胞を用いたコロニー形成法により評価した。細胞内の金属元素量をトリプシン処理後に誘導結合プラズマ質量分析計により測定した。
【結果及び考察】金属塩の共存下でもナノ粒子の粒度分布及びゼータ電位に顕著な変化はなかった。SiO2ナノ粒子共存下において,AlCl3,CuCl及びCuCl2の細胞毒性は増強したが,その他の金属塩の細胞毒性は変化しなかった。一方,TiO2ナノ粒子共存下において,いずれの金属塩の細胞毒性も変化しなかった。また,細胞毒性が増強したCuCl及びCuCl2を曝露した時,SiO2ナノ粒子共存下でCuイオンの細胞内取り込み量は有意に増加したが,TiO2ナノ粒子共存下でCuイオンの細胞内取り込み量は変化しなかった。一方,細胞毒性が変化しなかったZnCl2を曝露した時,どちらのナノ粒子共存下でもZnイオンの細胞内取り込み量は変化しなかった。これらのことから,SiO2ナノ粒子は共存する一部の金属塩の細胞毒性を増強させることが分かった。