抄録
【目的】我々はこれまでに,発がん標的性の異なる発がん物質をラットに28日間反復投与した際に発現変動を示す細胞周期分子の探索により,標的臓器を問わず,高い細胞増殖活性を示す発がん物質では,G2/M期に機能するCdc2とM期に機能するAurora B及びp-Histone H3の陽性細胞が増加することを見出した。また,G1/S期のチェックポイント蛋白であるp21Cip1とM期分子であるHP1αが標的臓器により異なる反応性を示した。今回,異なる発がん標的に対する発がん促進過程早期におけるこれらの分子の反応性を検討した。【方法】ラット二段階発がんモデルを用い,プロモーターとして肝臓ではpiperonyl butoxide及びmethapyrilene,甲状腺ではsulfadimethoxine,膀胱ではphenylethyl isothiocyanate,前胃及び腺胃ではcatecholを選択し,標的臓器のイニシエーション処置後に,発がん促進用量の混餌ないし飲水投与を行った。【結果】発がん促進により,肝前がん病変指標のglutathione S-transferase placental form陽性細胞巣ないし甲状腺の前がん病変指標と考えられるphospho-Erk1/2陽性細胞巣内でKi-67,Cdc2,Aurora B,p-Histone H3及びHP1αの陽性細胞が有意に増加した。また,発がん促進により膀胱,前胃,腺胃で形成された過形成病変内でこれらの陽性細胞が有意に増加した。一方,p21Cip1の陽性細胞は肝前がん病変内及び膀胱,前胃,腺胃の過形成病変内で増加したが,甲状腺の前がん病変内で減少した。【考察】前がん病変及び過形成病変内では,高い細胞増殖活性と共にM期異常を反映する分子発現変化を見出し,M期に停滞し,染色体不安定性を示す細胞の増加が推察された。一方,肝臓と甲状腺の前がん病変内におけるp21Cip1の発現の違いに関しては,肝前がん病変では他の臓器の過形成病変と同様にチェックポイント機能が保たれてG1/S期停止を示す細胞が増加するのに対して,甲状腺では破綻し発がんを促進する可能性が示唆された。