日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: EL2
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教育講演
化学発がん物質のリスク評価における閾値問題
*福島 昭治魏 民梯 アンナ鰐渕 英機
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抄録

 一般に化学物質は可逆性の病変をおこすにあたって用量依存性を示し、その反応には閾値がある。この閾値を求めることがリスク評価にとって必須な作業である。しかし、不可逆性の病変をもたらす発がん物質に対するリスク評価はどうであろうか。現在までのところ発がん物質、特に遺伝毒性発がん物質には閾値がないとして評価されている。すなわち、それらは環境中に存在する限り安全ではないという考え方でゼロリスク論である。しかし、これは仮説であり、科学的に証明されてはいない。
 そこで、発がん物質のゼロリスク論が正しいかどうかを検証するために、ラット発がん中期検索法を用いて、種々の環境発がん物質の低用量発がん性をweight of evidenceの観点から解析した。その結果、DNAとダイレクト的な反応に基づく遺伝毒性発がん物質であるヘテロサイクリックアミン(MeIQx、IQ、PhIP)やN-ニトロソ化合物(DEN、DMN)に発がん閾値、少なくとも実際的閾値が存在することを明らかにした。さらに、DNAとインダイレクト的な反応に基づく遺伝毒性発がん物質の臭素酸カリウムの発がん性には閾値が確実にあることを実証した。
 一方、規制の面ではDNAとの反応に基づかない遺伝毒性発がん物質の場合には閾値があるとの解釈が一般的となってきている。しかし、大多数を占めるDNAとの反応に基づく遺伝毒性発がん物質は依然として閾値がないとの概念で評価されている。とはいえ、最近、遺伝毒性発がん物質の規制の解釈にあたり、毒性病変が発生する量について、point-of-departure (PoD、起始点)という考え方を導入し、そのレベルで対応、解決して行こうとの新しい動きが出てきている。
 今後、環境化学発がん物質、特に汚染物質あるいは不純物として微量に存在する遺伝毒性発がん物質の規制にあたり、新しい考え方による発がんリスク評価を行うことが合理的である。

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© 2014 日本毒性学会
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