日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: MS1-4
会議情報

ミニシンポジウム 1 次世代が切り開く胎生期,発達期毒性研究
臨床における妊娠および授乳中の服薬の考え方
*伊藤 直樹
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 「妊婦・授乳婦の健康問題は、確証のない理論や時代錯誤の認識で、軽視されるべきではない」。妊娠と薬情報センターは、こうした理念を持つトロント小児病院臨床薬理・中毒学教室におけるマザーリスクプログラムと提携し、2005年から厚生労働省安全対策課の事業として開始された。疫学研究報告をもとにエビデンスに基づく妊婦・授乳婦への情報提供を行うだけでなく、国内におけるデータベース構築や、将来的な日本から世界への情報発信を主な業務としている。専属の医師および薬剤師が実務にあたるとともに、全国24の拠点病院とも情報を共有しながら、毎月200件前後の問い合わせに対して電話や対面での情報提供を行っている。
 開設以来、実際の相談役剤の43%を精神科系薬物が占め、エチゾラム、パロキセチン、アルプラゾラム、フルボキサミンなど、問合わせの多い上記10薬物のうち7つが精神科系薬物である。精神疾患合併妊婦・授乳婦においては、たとえば未治療の妊娠うつ病と産褥うつ病との関連性、さらには出産後の育児困難や乳児殺害事例など、こどもの健康は母親の健康状態に大きく依存する。当日は、ここ数年で話題となっている妊娠中のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)と先天性心疾患や新生児遷延性肺高血圧症、さらには自閉症との関連性など、臨床における現時点での考え方などを示す。さらに授乳中の精神疾患と服薬に関して、自験例をもとに紹介したい。
 サリドマイドの悲劇から半世紀経過した近年、標的蛋白が同定され、ようやくその発症機序が明らかになりはじめた。妊娠と薬情報センターとしても、世界中の奇形情報サービス(TIS: Teratology Information Services)と情報交換をしながら、数々の事例に関して正しいシグナルなのかノイズなのかを正しく見極め、未来への機序の解明に期待していきたい。

著者関連情報
© 2014 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top