日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: MS3-1
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ミニシンポジウム 3 耐性の新たなメカニズム:農薬から抗がん剤、抗ウイルス薬まで
殺虫剤抵抗性機構はどこまで明らかになったか
*冨田 隆史
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抄録
 殺虫剤抵抗性機構は,作用点の殺虫剤に対する感受性低下と解毒代謝の亢進に大別される。前者は,点突然変異などによる作用点の構造変化により生じることが多い。作用点をコードする遺伝子は,種を越えてもオーソロガスな関係が保たれている場合が多いため,たとえその配列が未知な種においても,相同性を利用した配列決定と変異の解析が容易に行える。ナトリウムチャネルとアセチルコリンエステラーゼの感受性低下変異のジェノタイピングは,主要媒介蚊種やイエバエなどの衛生害虫の薬剤抵抗性発達の監視に利用されている。一方,解毒代謝の亢進は,代謝酵素遺伝子の過剰転写またはDNA増幅による量的な変異によりもたらされることが多い。しかし,解毒代謝の亢進に係る分子と変異の特定は現在でも容易ではない。代謝抵抗性に係る分子は,シトクロムP450,グルタチオン転移酵素,エステラーゼ,ABCトランスポーターなど,多重遺伝子族の一員であることが多い。これらの遺伝子族では,分子進化速度が早く,重複・欠失が頻繁に生じることから,昆虫の種や属を超えると遺伝子間でオーソロガスな対応関係を見出すのが困難な場合が多い。過剰転写の遺伝的要因は,シス作用性変異のみにとどまらず,トランス作用性変異(転写調節タンパク質の発現に係る変異)の場合もある。ゲノムプロジェクトの成果が利用できる害虫種では,マイクロアレイ解析に基づき抵抗性系統で過剰発現性を示す候補遺伝子を挙げ,次いで抵抗性への遺伝的連関性と殺虫剤基質の代謝能を調べるという手順により,代謝抵抗性に係わる分子が特定されることが多かった。現在,次世代シークエンサーを用いる解析や人工ヌクレアーゼによる特異的ゲノム改変技術が普及しつつあることから,今後は,従来型ゲノムプロジェクトの選にもれていた害虫種でも,殺虫剤抵抗性に係る分子とその発現上の変異を解明する研究が進展するものと見込まれる。
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© 2014 日本毒性学会
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