【目的】我々は、ヒト由来の腎近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞)を用いて、カドミウム(Cd)によるアポトーシス誘導にp53の過剰蓄積が関わっていることを見いだした。しかも、ユビキチンプロテアソームシステムのE2転移酵素群の一つであるUbe2dファミリーの遺伝子発現抑制がp53の過剰蓄積を引き起こすことも明らかにしている。そこで今回は、CdによるUbe2dファミリーの遺伝子発現抑制に関与する転写因子の同定を行った。
【方法】HK-2細胞を40 µMのCdで3時間処理して核画分を抽出した。核画分を用いてProtein/DNAアレイを行い、Cdによって転写活性が変動する転写因子を同定した。siRNA法を用いて遺伝子発現を抑制させた後、遺伝子発現の変動(リアルタイムRT-PCR法)および細胞生存率(MTT法)を測定した。
【結果および考察】Protein/DNAアレイの結果、20種の転写因子のDNA結合活性(転写活性)がCdによって上昇し、28種の転写因子活性がCdにより低下した。Cdによる転写活性の低下が認められた転写因子のうち、FOXF1の結合配列がUbe2dファミリーに属するUBE2D4遺伝子の上流に存在することが確認された。さらに、FOXF1のノックダウンはUBE2D4 mRNAレベルを有意に減少させ、HK-2細胞の生存率も有意に低下させた。以上の結果から、Cdは、FOXF1の転写活性を阻害し、UBE2D4遺伝子の発現抑制を介して細胞に障害を与える可能性が示唆された。