抄録
[背景]薬物性肝障害の発生は臨床試験の中断や市販後の市場撤退の主たる要因の一つであり、医薬品候補化合物の肝毒性リスクを適切に評価し、薬物性肝障害の発生を防ぐことは医薬品の安全性評価における重要な課題である。これまで、医薬品候補化合物のヒト肝毒性を予測する非臨床試験系について様々な研究がなされ、今日では、HepG2や凍結初代ヒト肝細胞を用いた細胞毒性試験系が広く用いられている。しかし、培養細胞は安定して利用できる反面、シトクロムP450をはじめとする薬物代謝酵素の発現がきわめて低いため、代謝物由来の毒性を評価できないという問題点がある。さらに、凍結ヒト肝細胞にも同一ロットの持続的な供給が不可能な上、ドナーの違いに由来する薬物代謝能のロット間差が大きいこと、培養時間に伴って薬物代謝酵素の活性が急激に低下することなどの問題点がある。そこで、ヒトiPS細胞から分化誘導した肝細胞を毒性評価に用いることができれば、同一ロットの安定的な供給や、凍結肝細胞に比べて複数ドナー由来の肝細胞を容易に利用できるようになると期待されることから、ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた肝毒性評価が近年注目を集めている。
[目的]現在、製薬協ヒトiPS細胞安全性評価応用コンソーシアムでは市販のヒトiPS由来肝細胞を用いた細胞毒性試験を行い、その有用性と課題を検証している。今回我々は同コンソーシアムのプロトコルに従って、Cellectis社のヒトiPS細胞由来肝細胞hiPS-HEPを用いた細胞毒性試験を行った。
[方法]hiPS-HEPを96ウェルプレートに播種後、臨床で肝毒性が報告されている5化合物を48時間暴露し、ATPおよび上清中LDHを測定した。また、比較対象として、HepG2細胞と2ロットの凍結ヒト肝細胞の細胞毒性試験を同様に行った。本発表ではこれらの結果をもとに、それぞれの細胞種における細胞毒性の違いやヒトiPS細胞由来肝細胞の有用性と今後の課題について考察する。