抄録
【目的】化学物質による毒性発現や様々な疾患の発症に、細胞ストレス応答のかく乱が関与していると考えられている。従って、そのかく乱機構の解明は、毒性発現や疾病発症の機序解明、また、それらの予防・治療法の開発に繋がるものと思われる。そこで、本研究では、神経変性疾患、メタボリックシンドロームやがんなどに対して改善効果が期待されている柑橘類果皮成分ノビレチンが、細胞(小胞体)ストレス応答に対してどのような効果を示すかを検討した。
【方法・結果】小胞体ストレス誘導剤ツニカマイシン1μg/mlをヒト神経芽細胞腫株SK-N-SH細胞に単独処理することにより誘発したアポトーシスや細胞ストレス増悪因子thioredoxin interacting protein(TXNIP)発現上昇は、ノビレチン100μMとの複合処理により有意に抑制されることを見いだした。また、このTXNIP発現抑制効果は、ノビレチンを処理したヒト肝がん細胞株HuH-7およびラット線維芽細胞3Y1細胞株でも共通して認められることが明らかとなった。最近、TXNIPの発現抑制に、多様な疾患の薬物治療の標的分子として注目されているAMP-activated protein kinase(AMPK)の活性化が重要であると報告されたため、ノビレチンのAMPK活性化(リン酸化)への効果をさらに検討した。その結果、ノビレチンはAMPK活性化を強力に惹起すること、また、AMPKリン酸化を触媒するliver kinase B1(LKB1)を活性化することを見いだした。
【考察】本研究により、ノビレチンは、LKB1-AMPKの活性化を介して、TXNIPの発現を低下させることで、小胞体ストレス応答のかく乱(結果として誘発されるアポトーシス)を抑制する可能性を見いだした。今後、これら知見を基に、化学物質による毒性発現や疾患発症に関わる細胞ストレス応答のかく乱機構やノビレチンによるそれら抑制機序を更に明確にしていきたいと考える。