抄録
医療分野において、カーボンナノチューブ(CNTs)を用いた新しい生体材料を開発し、治療や診断に応用する研究が活発に行われている。例えば、CNTsをDDSや生体イメージングに用いる研究、CNT複合体をインプラントに用いる研究等が進められている。また、近年急速に進展している再生医療の足場材に、CNTs を応用する研究が注目されている。いくつかの組織再生でCNTsを利用する試みが行われており、中でも骨組織再生における有効性が多く報告されている。我々は、2008年に生体内で骨組織を再生する実験で、CNTsを複合した足場材料を用いると骨形成が促進されることを初めて報告した。その後、同様の結果が他の複数の研究チームから発表され実証されてきた。また生体外の実験では、CNTsが骨を形成する骨芽細胞の機能を促進することが、やはり複数の研究チームから示された。このようにCNTsは、骨組織や骨関連細胞に対して、あたかも生体活性を有するかのような特性を示す。しかし、骨組織再生におけるこのCNTsの特性は、その現象だけが報告されており、メカニズムは明らかにされていなかった。これまで知られている多くの生体活性材料は、生体分解性という性質を利用して、その生体活性を発揮する。しかしCNTsは、生体分解性とは異なる作用により、生体活性を有する材料である可能性がある。我々は、CNTsが骨を吸収する破骨細胞に対して、転写因子の核移行を減少することにより、分化を抑制することを明らかにした。また、CNTsが骨芽細胞の石灰化機能に及ぼす生化学的な作用に焦点をあてて検討することにより、CNTsは骨芽細胞と相互に作用して骨形成を促進することを示した。現在、これらの骨関連細胞に対するCNTsの作用を応用して、骨形成を誘導する新しいコンセプトのインプラント開発を行っている。