日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: S17-3
会議情報

シンポジウム 17 発生・発達毒性におけるエピジェネティクス研究の新展開
ニューロン新生障害を標的とした脳発達エピジェネティック毒性
*渋谷 淳Liyun WANG
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
ほ乳類の脳には生後も続くニューロン新生を行う特有な部位がいくつか存在する。その内、学習や記憶の中枢である海馬に存在する歯状回の顆粒細胞層下帯(SGZ)では、顆粒細胞系譜の幹細胞の自己複製をはじめ、前駆細胞の増殖、移動、分化等の過程が観察できる。更に、歯状回の門部には複数のGABA性介在ニューロン集団が存在して、顆粒細胞の機能調節やそれらの移動、分化を制御し、ニューロン新生障害に応じてそれらは分布変化を示す。一方、エピジェネティックな遺伝子発現制御系であるゲノムのメチル化変化は細胞分裂後の子孫細胞に受け継がれるため、神経幹細胞の異常なメチル化修飾により、生後にも引き続く遺伝子発現プログラムの変調から細胞分化異常を生じて脳の高次機能に影響を与える可能性がある。特に過メチル化により下方制御される遺伝子は不可逆的影響の責任遺伝子となる可能性がある。我々は、ニューロン新生に着目した脳発達に対する毒性評価法の確立を目指して、ラットやマウスを用いた神経毒性物質の暴露実験を行い、顆粒細胞系譜と介在ニューロンの分布解析を基盤としたニューロン新生に対する標的性を検討してきた。その中でMnの発達期暴露によりF1マウスの海馬におけるニューロン新生障害が成熟後も永続することを見出した。そのため、海馬歯状回のゲノムメチル化変動の網羅的解析を実施し、Mn暴露による介在ニューロン由来のPvalbAtp1a3の他、神経幹細胞の転写因子であるNr2f1、正中の形態形成に関与するMid1等の遺伝子の過メチル化による下方制御を見出した。殊にNr2f1Mid1は神経幹細胞の段階でメチル化異常が生じ、後の分化段階で不可逆的影響を誘発する可能性を示唆している。興味深いことに、Mid1の翻訳産物であるmidline 1はsonic hedgehogと共に左右差を規定する分子であり、ニューロン新生障害に伴い、その左右差が消失することを見出したので、この結果も併せて紹介する。
著者関連情報
© 2014 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top