日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: S18-2
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シンポジウム 18 膵炎・膵臓がんの非臨床及び臨床評価
インクレチンと膵炎・腫瘍
*八木橋 操六
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抄録
 インクレチン薬としてのGLP1アナログやDPP-IV阻害薬はいまや2型糖尿病治療の主役となりつつある。しかしながら、インクレチン薬の安全性について結論はいまだ得られていない。とくに、膵島細胞のアポトーシス抑制、再生促進作用から、膵腫瘍や膵炎発生の危険性が危惧されている。実際、限られた研究室からの報告ではあるが、臨床データのメタアナリシスにおいて、一部急性膵炎や膵癌の発生頻度がインクレチン治療群で高い結果が得られ注目を浴びた。しかし、追試にてこのようなデータは再現されていない。一方、動物実験による実験的研究にても異なった結果が報告されている。すなわち、DPP-IV阻害薬投与による膵炎像の出現や、膵導管上皮での増殖促進や、前癌病変の高発現が報告される一方で、なんら影響のなかった研究報告もみられる。さらにセンセーショナルなのは、インクレチン治療を受けたヒト糖尿病者膵にα細胞の増殖や、内分泌腫瘍の発生、さらには導管上皮の増殖巣をみた報告である。この研究報告は一般にバイアスのかかった報告としての評価が多いものの、米国衛生局(FDA)あるいは日本糖尿病学会も膵炎・腫瘍発生の危惧について喚起を促している。私共もDPP-IV阻害薬をはじめとしたインクレチン薬が膵にどのように影響を与えるかを探索している。自然発症糖尿病GKラットを用いた基礎研究で、インスリン分泌の改善とともにβ細胞容量の増大を治療群で確認できている。一方、外分泌組織においては、GKラットでの炎症巣の発現頻度は高いのに比しDPP-IV阻害薬投与群ではむしろ抑制され、好結果を得ている。一方、DPP-IV阻害薬の導管上皮増殖動態への影響はなく、腫瘍発生のリスクは得られていない。さらに、ヒトインクレチン治療の糖尿病者膵への影響については未だ十分な症例数は得られていないが、これまでのごく少数例での観察では、明らかな腫瘍様病変は観察されていない。今後、症例数の増加、より詳細な長期間にわたる検討を加え、インクレチン療法の安全性についての検証が必要とされている。
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© 2014 日本毒性学会
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