抄録
胎児期は中枢神経系の発達する時期であり,メチル水銀の影響をもっとも受けやすく、出生児の発達への影響が懸念される。メチル水銀の主な曝露源は魚介類の摂取によると考えられ、魚を多食する集団での影響が1980年代頃から懸念されはじめ、世界各国で出生コホート調査が進められた。日本でも我々のグループが低濃度メチル水銀曝露影響に関して、出生コホート調査を進めてきた(Tohoku Study of Child Development; TSCD)。TSCDでは東北の中核都市および魚介類摂取量が多いと考えられる沿岸都市にて調査を実施している。本講演では、沿岸都市で登録された母子(18ヶ月)を対象とし実施したBayley Scales of Infant Development 2nd edition (BSID)の結果を示すとともに、海外の出生コホート調査の結果もあわせて紹介したい。さらに我々は、ヒトで得られた現象を、動物実験で確認するため、胎児期あるいは出生後マウスにメチル水銀を曝露した。
TSCDにおいては、臍帯血の総水銀濃度とBSIDの運動発達指標(微細運動)との間に有意な負の関連性がみられ、特に男児においてその影響が確認された。動物実験においては、水迷路試験では遊泳速度の遅延およびローターロッド試験ではバーから落下時間の短縮が雄でのみ観察された。曝露レベルや種差、検査バッテリーの相違等があることから、ヒトとマウスで得られた現象を比較するのは困難であるが、性差がヒトとマウスで共に認められたことは興味深い。