日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: SL3
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特別講演
ナノマテリアルから拡がる医療イノベーション -高分子ミセルによるがんの標的治療-
*片岡 一則
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抄録

 近年、QOLの向上を含む医療技術の進歩は、持続社会の発展に向け、必要不可欠なものとして捉えられている。とりわけ、先端医療の分野においては、薬物や遺伝子の体内分布を時間的・空間的に正確に制御する事によって、「必要な時(timing)に、必要な部位(location)で、必要な薬物・遺伝子治療(action)」を最小限の副作用で達成する高精度ピンポイント治療に対する関心が高まっているが、この目的を首尾良く達成する為には、ナノスケールで精密設計された高機能化薬物・遺伝子運搬体(超分子ナノデバイス)の開発が最重要とも言える課題である。この様なナノデバイスとして我々は、ナノマテリアルである両親媒性ブロック共重合体の自己会合に基づいて形成される高分子ミセルに注目して検討を進めてきた[1]。
 親水性連鎖と疎水性連鎖とからなるブロック共重合体は、水中で会合することによって、疎水部を内核(core)、親水部を外殻(shell)とする会合体(高分子ミセル)を形成する。高分子ミセルは、その直径が20~50nmであり、天然物で言えば、丁度、リポタンパク質やウイルスと同等のサイズである。内核は外界から隔絶された非水的ミクロ環境を構成し、疎水性物質のナノ・リザーバーとしての機能が期待される。一方、外殻は親水性で、高分子ミセルの優れた安定性と溶解性を維持するのに役立つとともに自由端を有する高分子鎖の特徴として極めて高いフレキシビリティーを示し、生体内において細網内皮系からの認識を免れるのに役立っている。
 現在、我々が開発した5種類の異なる制がん剤を内包した高分子ミセルが既に世界各国で臨床治験に入っている。その内の2品目については、既に承認申請へ至る最終段階である第III相治験に至るなど高い制がん効果と副作用の低減が確認されている。本講演ではこの様な高分子ミセル医薬開発の最前線について紹介する。

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