抄録
化合物などによる刺激を受けた細胞の応答の解析に当たり、解析対象となる分子が細胞にどれほど存在しているかを評価するのみならず、このような分子がどこに存在するかにつき、その細胞内局在の時間的・空間的変化まで含めて検討を要することが多い。例えば脂肪細胞はインスリンで急性の刺激を受けると糖取り込みを増加させるが、これは脂肪細胞に発現している糖輸送担体GLUT4の量が増えるためではなく、刺激前に細胞内に局在していたGLUT4がインスリン刺激によって細胞膜に移行して糖取り込を開始するためである。このような細胞内局在の解析に、蛍光物質などを利用したイメージング、とりわけ本来の細胞機能を保ったまま観察するライブセルイメージングは強力なツールである。対象となる分子の時間的・空間的局在の制御を高精度で観察する際、光学顕微鏡の使用による空間解像度の限界が課題となっている。その克服向け、様々な技術が開発されてきた。光学顕微鏡を通して得られる画像には、顕微鏡の光学的特性により、焦点以外の部位にもシグナルを必ず認める。例えば空間解像度よりもサイズの小さい点光源を光学顕微鏡で観察した場合、理想的な環境では像も点であるが、現実には点光源の場所を中心にした三次元的な広がりを持つ物体として観察される。デコンボリューション顕微鏡では、数学演算によって焦点以外の部位に見られるシグナルを焦点に復元することができる。そのため光学顕微鏡の空間解像度による限界を超える高解像度の画像を得ることができる。また焦点以外の部分に観察されるシグナルを焦点に復元することにより、シグナルの定量においてもその精度が大幅に向上する。デコンボリューション顕微鏡の原理を簡単に紹介しながらその効果を提示する。
蛍光顕微鏡を用いたライブセルイメージングでは新規蛍光物質の開発が昨今著しい。最近の進歩について紹介するとともに、注意点についても触れたい。