抄録
ワクチンの安全性評価は、非臨床試験、臨床試験に加えて、ロットリリース試験として異常毒性否定試験およびマウス白血球数減少試験等が生物学的製剤基準として設定されている。我々はこれまでに網羅的遺伝子発現解析を活用した新規安全性評価法の構築を試みてきた。その結果、現在、製造されている季節性インフルエンザHAワクチンよりも副反応報告が多かった全粒子インフルエンザワクチン (WPV) 接種後のラット肺において、特異な発現上昇を示す20個のバイオマーカー遺伝子を同定することに成功した。今回、我々はワクチンの品質・安全性評価をよりヒトに近い実験条件下で実施するため、末梢血ヒト化マウス (Hu-PBL) を用いたワクチン・アジュバントの安全性試験法開発を試みた。
超免疫不全マウスであるNOGマウス (NOD/Shi-scid-IL2Rγnull) に、ヒト末梢血単核球 (PBMC) を2 x 106-1 x 107 cells/mouseで移植したところ、移植約2週目の抹消血よりhCD45陽性細胞が検出され始め、3週目ではおおむね50%以上の細胞がhCD45陽性細胞であることが示された。hCD45陽性細胞中にはCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、CD19陽性B細胞や樹状細胞などが存在していることが明らかとなった。またPBMC移植3週後の肺および脾臓においてヒトの主要リンパ球の定着が認められた。上記の条件検討によって確立されたHu-PBLにWPVを接種した結果、肺において6つのヒトのマーカー遺伝子の発現上昇が認められ、我々が同定したマーカー遺伝子の一部が、ヒトに外挿可能であることが示された。また、in vitroのPBMC培養系においても、WPV処置により一部のマーカー遺伝子発現上昇が認められ、in vitro試験系の構築やマーカー遺伝子発現メカニズム解明にむけて前進する結果が得られた。