抄録
[背景・目的] 硫酸転移酵素の一つSULT1Aはその基質特異性と肝臓における発現量が齧歯類とヒトで異なることから、本酵素によって代謝活性化される化学物質の肝発がん性のヒトへの外挿には種差を考慮する必要がある。一方、これらの物質の中には肝臓だけでなく腎臓に発がん性を示す物質も存在する。本研究では、SULT1Aで代謝活性化される肝及び腎発がん物質のルシジン配糖体(LuP)が引き起こすDNA損傷並びに遺伝毒性への肝SULT阻害剤の影響を検索した。[方法] 10週齢の雄性B6C3F1 gpt deltaマウスにLuP及び肝SULT阻害剤のペンタクロロフェノール(PCP)を0.3及び0.02%の濃度で単独又は併用で混餌投与し、対照群には基礎飼料を与えた。PCPはLuPの投与1週間前から投与し、LuPの投与開始後4及び13週の肝臓と腎臓を採取した。4週ではSULT1Aの遺伝子発現レベル及び酵素活性レベルの検索、特異的DNA付加体測定及びDNA損傷応答因子の解析、13週では病理組織学的検索及びレポーター遺伝子突然変異原性の検索を行った。[結果] PCPの投与により肝臓のSULT1Aの遺伝子発現レベル及び酵素活性が有意に低下したが、腎臓でこれらの変化は認められなかった。LuP投与群ではLuc-N6-dA付加体の形成及びA:T-T:A transversionを特徴としたgpt変異体頻度の上昇が認められ、いずれも肝臓よりも腎臓で高値を示した。また、肝臓については今後、検索予定であるが、腎臓ではp53タンパクのリン酸化及びp21の遺伝子発現の増加と腎髄質外帯の近位尿細管で核の大小不同が高頻度に認められた。一方、PCP投与により、これらの変化は何れも抑制された。[考察] 腎臓には肝臓と同様にSULT1A遺伝子発現があるが、ヒト、齧歯類ともにその発現量は肝臓に比して著しく低いことが知られている。今回の結果からLuPの腎発がん性には肝臓のSULT1Aによる代謝活性化が寄与していることが示唆され、その腎発がん性をヒトへ外挿するには種差を考慮する必要あると考えられた。